WELLSTAR AGENCY COLUMN
「管理会社を変えたのに、空室が1年以上続いている」──先日、ある投資家からそういう相談を受けた。築18年・木造アパート8室、埼玉県川口市。表面利回りは当初8.4%で購入したはずが、実態は3室空きで実質4%台に沈んでいた。管理会社を変えたことで問題が解決すると踏んでいたが、空室の根は別のところにあった。
管理会社を変えても埋まらない理由
空室が続くと、多くのオーナーはまず「管理会社の動き方が悪い」という結論に飛びつく。確かに管理の質は入居率に影響するが、管理会社の変更が特効薬になるケースは体感でいうと全体の2割程度だ。残りの8割は、物件自体に構造的な問題を抱えている。
管理会社が変わって最初の3ヶ月は入居申込みが1〜2件入ることが多い。新しい業者が既存のネットワークで一斉に情報を流すからだ。しかし4ヶ月目以降、また静寂が戻ってくる。このパターンが繰り返されているなら、診断すべきは管理体制ではなく物件の競争力そのものだ。
診断の手順としてまず確認すべきは、SUUMO・HOMES・athomeの掲載状況だ。自分の物件が検索結果の何ページ目に表示されているかを確認する。競合物件と並んだとき、写真の枚数・品質・賃料・設備表記のどこで負けているかが一目でわかる。多くの場合、オーナーが思っている「うちの物件の弱み」と、入居希望者が感じる「選ばない理由」はズレている。
賃料設定が「相場」ではなく「感情」になっている
賃料の見直しを提案すると、「まだ下げたくない」と言うオーナーは多い。購入時の想定賃料を守ろうとするのは心理的に理解できるが、これが長期空室の最大の原因になっている場面を何度も見てきた。
賃料は「下げれば埋まる」という単純な話でもない。問題は、相場からのズレ幅と空室期間のどちらが損失として大きいかの計算を、多くのオーナーが感覚でやっていることにある。
たとえば月額6.5万円の部屋を6ヶ月空けておくと、損失は39万円だ。5,000円下げて5,000円×12ヶ月=6万円の年間減収と比較すれば、損益分岐点は単純計算で7.8ヶ月。つまり賃料を維持したまま8ヶ月以上空き続けるくらいなら、早めに値下げして入居させた方が純粋に手残りが増える。物件のCF・IRR・DSCRは物件シミュレーションPro Ver.7.0で試算できるので、この損益分岐点を自分の物件数値で確認してほしい。
もっとやっかいなのは、賃料が相場と乖離していないのに空室が続くケースだ。この場合、問題は賃料ではなく「設備・仕様の競争力」か「ターゲット設定のズレ」に移る。
設備投資は「何を追加するか」より「何が欠けているか」
宅配ボックスやIoT施錠を追加して空室が埋まったという事例は実際にある。ただし、それが有効なのは「競合が持っていて自物件が持っていない設備を補う」場面に限られる。周辺の競合が全員宅配ボックスを設置しているなら、自物件が設置しても差別化にはならない──「マイナスをゼロに戻しただけ」だ。
設備判断で使えるフレームは単純で、「競合と比較したときのマイナス要素を先に潰す」という順序だ。入居希望者がポータルサイトで物件を絞り込む際、まず条件フィルターで弾かれていないかを確認する。「バス・トイレ別」「エアコン付き」「室内洗濯機置き場あり」などのフィルターで自物件が除外されているなら、そこから手をつける。
横浜市内で1棟アパートを保有するA氏(50代・会社経営・既婚)のケースが参考になる。築22年・木造2階建て12室、横浜市南区、取得価格9,800万円・表面利回り7.8%。取得から3年で空室が5室まで拡大し、賃料収入は当初計画比で月32万円下落していた。管理会社から「宅配ボックスの設置」と「賃料の5,000円値下げ」を提案されたが、A氏は独自に周辺の競合20物件を調査した。結果、問題の核心は「1Kタイプ9室のうち7室がユニットバス」であることと判明した。競合の新築・築浅物件はほぼ全室3点分離で、フィルター検索の段階で弾かれていたのだ。A氏は管理会社の提案を却下し、空室5室のうちまず2室のユニットバスを分離型に改修(計160万円)。改修完了後2ヶ月で両室が入居し、残り3室も順次改修する計画に切り替えた。年間の賃料損失が約192万円(32万円×6ヶ月)だったことを考えると、160万円の初期投資は合理的な判断だった。
「管理会社の言う通りに動いていたら、宅配ボックスに60万円使って空室は変わらなかったと思う。自分で現地と競合を見て初めて本当の問題がわかった」
A氏・50代会社経営者・横浜市
立地の「需給構造」が変わっていないか
物件そのものの問題を解消しても空室が続く場合、エリアの需給構造が変化している可能性を疑う。これが一番やっかいなケースで、オーナー個人の努力で解決できる範囲を超えている。
需給構造の変化には大きく2種類ある。「供給過多」と「需要消滅」だ。
供給過多は、周辺に新築・築浅物件が増加して競合が激化するパターン。この場合、古い物件が相対的に選ばれにくくなる。設備投資で差を埋める戦略が有効な場合と、そもそも賃料水準を落として「コスパ物件」として再定義する戦略が有効な場合に分かれる。
需要消滅は更に深刻で、エリア自体の人口が減少していたり、主要な雇用施設(工場・大学・病院)が移転・縮小したりしているケースだ。この場合、設備を改修しても賃料を下げても、借り手候補の母数が物理的に減っているため、空室率は構造的に高止まりする。
需給構造の診断に使える3つの数値
賃貸需給を診断する際に実務で使っている数値は、エリアの賃貸空室率・人口動態(国勢調査・住民基本台帳)・新築着工件数の3つだ。国土交通省の「不動産情報ライブラリ」や各都道府県の統計で確認できる。賃貸空室率が15%を超えているエリアでは、個別物件の改善努力だけでは空室を埋めることに限界がある。
診断結果が「需給構造の悪化」に行き着いた場合、オーナーが取れる選択肢は限られる。家賃を思い切って下げて長期入居者に絞る、ターゲットを外国人や生活保護世帯に変更する、民泊やシェアハウスに用途転換する、あるいは売却して損切りを確定させる──このいずれかだ。どれが正解かは物件の残存耐用年数・ローン残高・含み損益のバランスで決まる。個別の投資相談は不動産投資ページから受け付けている。
「入居者ターゲット」の設定ミスが空室を固定化する
設備も賃料も競合に負けていないのに埋まらないという場面で、次に疑うのがターゲット設定のズレだ。物件のスペックと、オーナーまたは管理会社が想定している入居ターゲットが一致していないケースは多い。
大阪市淀川区で1棟マンションを保有するBさん(40代・医師・単身)の事例が典型的だ。築15年・RC造7階建て18室、取得価格1億8,500万円・表面利回り6.2%。15〜20㎡の1Kが中心で、管理会社は「単身会社員」をターゲットに設定していた。しかし物件の最寄り駅は阪急神戸線沿線で、周辺は外国人労働者・留学生の居住比率が高く、単身会社員の需要は想定の半分以下だった。管理会社は外国人入居を「家賃滞納リスクがある」として避けており、12室稼働・6室空室という状態が8ヶ月続いた。Bさんが管理会社に外国人入居受け入れの方針変更を指示し、保証会社の活用を条件に受け入れを開始したところ、3ヶ月で空室5室が入居した。年間賃料損失は空室期間中に約720万円(18室×賃料7万円×6室空室×月換算)に達していたが、方針転換後は実質利回りが6%台を回復した。
ターゲット設定のズレは、管理会社が善意で「リスク管理」として行っていることが多い。しかし管理会社のリスク管理がオーナーの収益を毀損しているなら、それは本末転倒だ。
診断の「順番」を間違えると対策費が無駄になる
ここまで整理すると、空室の診断は「立地の需給」→「賃料水準」→「設備・仕様」→「ターゲット設定」→「管理の質」という順番で行うべきだとわかる。多くのオーナーはこの順番を逆から始める。管理会社を変え、設備を追加し、最後に「エリアが悪かった」と気づく。
診断を始める前に、まず「この物件でそもそも入居者を集められる構造になっているか」を確認する。エリアの賃貸需要が存在し、賃料が相場に合っており、最低限の設備が揃っているなら、あとは情報発信と管理の問題だ。しかしその前提が崩れているなら、管理改善にいくら投資しても効果は薄い。
自分の物件の診断に使えるチェックの順序
まずポータルサイトで自物件と競合5棟を並べて比較する。賃料・設備・写真品質・更新日の4軸で比較し、自物件が明らかに劣る項目をリストアップする。次に、エリアの賃貸空室率と人口動態を確認する。空室率が10%以下で人口が安定しているなら、問題は物件側にある。空室率が高止まりしているなら、売却も含めた出口戦略の検討が先になる。
自分が保有できる物件規模と財務体力を把握した上で、次の一手を決めることが鉄則だ。自分が買える物件規模は1棟投資 購入力診断で30秒で分かる。既存物件の診断と新規購入の判断を切り分けて考えることが、長期的な収益安定につながる。
空室は「物件の声」だと思って診断する
空室は単なる収益の空白ではなく、物件が市場に対して競争力を失っているサインだ。それが賃料の問題なのか、設備なのか、エリアなのか、ターゲット設定なのかを正確に特定しない限り、どんな対策も「空振り」になる。
初めて1棟投資を検討している人は、購入前から「このエリアの需給はどうか」「入居ターゲットは誰か」「設備は競合に勝てているか」を問う習慣をつけておくといい。初めての1棟投資ははじめての1棟投資 無料相談で整理することを勧める。購入後に診断するより、購入前に診断する方がはるかにコストが安い。
あなたの物件の空室は、今どの層に原因があるか──その問いに答えられるオーナーと、なんとなく管理会社任せにしているオーナーでは、10年後の資産状況に明確な差が出る。診断は難しくない。ただ、正しい順番でやる必要がある。
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配信: 株式会社ウェルスターエージェンシー






