物件の築年数と残存耐用年数が投資収益に与える影響──実務で見える景色

WELLSTAR AGENCY COLUMN

「築古だから安い」ではなく「残存耐用年数がゼロだから詰む」

先日、横浜市内で1棟アパートを保有するA氏(50代・会社経営、妻と子2人)から売却相談を受けた。購入時の表面利回りは11.2%。「割安で買えた」という満足感を持って7年間保有してきたが、売却査定の場で初めて現実と向き合うことになった。築37年の木造アパートは、残存耐用年数がほぼゼロ。融資がつかず、買い手候補は現金購入層に限定される。最終的な売却価格は2,800万円。購入価格は4,500万円だった。この700万円以上の差損は、利回りの数字が隠し続けていた構造的な問題の末路だ。

築年数という変数は、投資収益に三つの経路で作用する。融資評価、税務上の減価償却、そして出口価格。この三つが連動して動く仕組みを理解しないまま物件を選ぶと、保有期間中はキャッシュフローが出ているように見えて、売却時に全部持っていかれる。そういう案件を何件も見てきた。

法定耐用年数と残存年数が融資額を決める現実

金融機関が担保評価を行う際、木造の法定耐用年数は22年、重量鉄骨造は34年、RC造は47年と定められている。問題は、すでに法定耐用年数を超えた物件、あるいは残存年数が5年以下の物件に対して、融資期間を著しく圧縮するか、そもそも融資しないという判断を多くの金融機関がとることだ。

融資期間が短くなれば、元利均等返済の月次返済額が上がる。月次返済額が上がれば、手元に残るキャッシュフローは減る。表面利回りが10%あっても、融資期間10年の条件でフルローンを引いたら、返済比率は軽く60〜70%を超えてしまう。そこに管理費・修繕積立金・空室損が乗れば、毎月赤字というシナリオも珍しくない。

22年
木造の法定耐用年数
47年
RC造の法定耐用年数
▲28%
築超過物件の担保評価減の目安

さらに、法定耐用年数を超えた物件を融資で取得した場合、金融機関によっては「耐用年数の1.2倍ルール」「築年数×係数」など独自のロジックで融資期間を算出する。たとえば築25年の木造物件(法定耐用年数22年を3年超過)に対して、法定耐用年数の20%相当を加算した4〜5年程度しか融資期間を取らない金融機関も存在する。購入希望者が現れても融資が通らなければ、実質的に現金買いしか受け皿がなくなる。これが出口の問題に直結する。

築古物件に融資がつくかどうかの分岐

融資がつくかどうかは、単に築年数だけで決まるわけではない。積算評価が高ければ、耐用年数超過でも融資を引ける金融機関はある。土地の路線価が高く、建物の割合が低い物件(土地値に近い物件)は、担保割れリスクが低いと見なされるからだ。逆に言えば、土地値が低く、建物割合が高い郊外の築古木造物件は、もっとも融資環境が厳しい類型に属する。自分が買おうとしている物件が「どの類型に入るか」を先に確かめることが、融資打診よりも先のステップだ。

減価償却の「旨味」と「消耗」を同時に計算する

高所得者が築古物件を好む最大の理由の一つが、減価償却費の大きさだ。残存耐用年数が短い物件ほど、短期間に大きな償却費を計上でき、課税所得を圧縮できる。年収2,000万円超の経営者や医師にとっては、これが現金支出を伴わない節税機能として機能する。

ただし、この恩恵には「消費期限」がある。残存耐用年数が4年の木造物件を購入すれば、4年間は大きく費用計上できるが、5年目以降は1円の減価償却も取れない。その瞬間から、税引き後キャッシュフローは激変する。節税目的で買った物件が、償却切れと同時に「ただの低利回りの赤字物件」に変容するケースを何度も見た。

残存4年(木造築超過):年間償却率 25.0%
残存10年(木造新築換算):年間償却率 10.0%
残存22年(木造新築):年間償却率 4.5%
残存47年(RC新築):年間償却率 2.1%

このグラフが示すように、短期の償却率は高いが、それは「使える期間が短い」ことの裏返しだ。節税効果を享受する期間と、保有継続コストが増える期間と、出口を取るべき時期を重ね合わせて設計しなければ、節税の旨味だけ享受して、損失で終わる。

「デッドクロス」が来るタイミングを先に計算する

減価償却費が元金返済額を下回るタイミング──いわゆるデッドクロスは、築古・高利回り・フルローンという組み合わせで特に早く訪れる。帳簿上は黒字なのに税金の支払いで手元資金が底をつく状態は、知識がある投資家でも実際に直面すると思いのほか苦しい。物件のCF・IRR・DSCRは物件シミュレーションPro Ver.7.0で試算できるので、デッドクロスの発生年次を事前に確認する習慣をつけたい。年次ごとのキャッシュフロー推移と税引き後手取りを横に並べれば、「何年目に出口を取るべきか」の判断軸が自然と浮かび上がる。

出口価格は「買値の想定」ではなく「次の買い手の融資条件」で決まる

不動産の売却価格は、究極的には「次の買い手が融資でいくら借りられるか」に収束する。これを忘れて「買値+リフォーム代+利益」で売り出し価格を設定する投資家がいるが、その数字に根拠はない。次の買い手が金融機関から3,500万円しか融資を引けない物件に、4,200万円の値付けをしても成約しない。700万円の差額を現金で補填できる買い手を探すか、価格を下げるかしかない。

大阪市淀川区で8戸の鉄骨造アパート(築28年、取得価格7,200万円、表面利回り9.3%)を保有していたBさん(40代・医師・独身)の話がある。購入から5年後、住み替えに伴い売却を検討したが、築33年となった時点での査定額は5,600万円台。残存耐用年数が1年を切っており、融資が事実上つかないため、現金投資家向けの価格帯まで落とす必要があった。5年間の賃料収入を合計すると約3,350万円(空室・管理費控除後)だったが、取得コストと売却損を合算すると収支はほぼトントン。節税効果を加味してようやくプラスという結果だった。Bさん自身は「減価償却で税金を400万円以上圧縮できたので悪い投資ではなかった」と言うが、出口の価格下落リスクを定量的に把握していたかどうかは別の話だ。

「買ったときの利回りが9%を超えていたから安心していた。でも売るときに融資がつかない物件だと分かったのは、買った後だった」

Bさん・40代医師・大阪市淀川区物件オーナー

出口価格を事前にシミュレーションするには、「保有終了時点での残存耐用年数」と「その時点で流通する可能性のある買い手層の属性」を想定しておく必要がある。残存耐用年数が10年以上残っていれば融資付きの買い手が現れる。5年を切ると現金買い層に限定され、流動性が急落する。この分岐点を「自分が売りたいタイミング」より前に設定できているかどうかが、出口設計の本質だ。

築年数別・構造別の実務的な投資判断マトリクス

構造/築年数帯 残存耐用年数目安 融資期間の傾向 減価償却の厚み 出口流動性
木造・築10年以内 12〜22年 20年前後取れる 中(4.5%/年) 高い
木造・築15〜22年 0〜7年 5〜10年に圧縮 高(短期集中) 中〜低
木造・法定超過 0(計算上) 原則なし〜4年 あり(独自計算) 低(現金のみ)
重量鉄骨・築20年以内 14〜34年 20〜30年 中(2.9%/年) 高い
RC造・築20年以内 27〜47年 25〜35年 低(2.1%/年) 最も高い
RC造・築30〜40年 7〜17年 10〜20年 低〜中 中(融資絞り気味)

この表を見れば、「RC造なら古くても安心」という思い込みが崩れる。築40年のRCは残存17年。融資期間は15〜20年取れる可能性があるが、大規模修繕の波が来る時期と保有期間が重なるリスクがある。構造によって優劣が固定されているわけではなく、残存耐用年数と修繕タイミングと出口設計が連動しているかどうかが判断軸だ。

「利回り」の先にある三つの数字を先に見る

表面利回りを入口の判断に使うこと自体は否定しない。ただ、それは入口の「足切りライン」にすぎない。実際の投資判断には、最低でも次の三つの数字を先行させる必要がある。

一つ目はDSCR(債務返済カバレッジ比率)。年間の純営業収益が年間の元利返済額の何倍あるかを示す。1.2倍を下回ると多くの金融機関で融資が厳しくなり、1.0を下回ると返済そのものが賃料収入で賄えない状態だ。築古物件で融資期間が短くなると、このDSCRが一気に悪化する。

二つ目はIRR(内部収益率)。保有期間中のキャッシュフローと売却時の回収額を合算して、投下資本に対する年率リターンを計算する。表面利回りが同じでも、出口価格が2,000万円変わればIRRは数%単位で動く。「保有中の収益だけ見て買う」という発想を捨て、売却値×売却タイミングまで含めた設計をIRRで検証する。

三つ目は実質的な税引き後キャッシュフローの推移。特に減価償却が切れる年次の前後で、手取りがどう変化するかを年次で追う。これを怠ると、いきなり確定申告で追加納税が発生して資金繰りに詰まる。個別の投資相談は不動産投資ページから受け付けているが、相談前にこの三指標を自分なりに試算してきた投資家は、議論の密度が段違いに上がる。

築年数は単体の変数ではなく、融資期間・減価償却・出口価格の三変数を同時に動かすトリガーだ。この三つが連動する構造を先に頭に入れてから物件を見ると、表面利回りだけでは見えなかったリスクの形が浮かぶ。

「買える金額」と「買うべき物件のスペック」は別の話

融資審査において、金融機関は借り手の属性(年収・資産・業種)と物件の担保評価を掛け合わせて融資額を決める。年収2,000万円の医師であっても、担保評価が低い築古木造物件では融資が出ない。逆に、物件の収益性と担保評価が高ければ、年収が同じでも融資額は大きく変わる。つまり「自分はいくら借りられるか」ではなく「この物件に対していくら融資が出るか」が実態だ。

購入力の上限を確認したい場合、自分が買える物件規模は1棟投資 購入力診断で30秒で分かる。属性入力だけで概算を出せるが、その数字はあくまで属性ベースの上限値だ。実際の物件に対して金融機関がどの評価ロジックを適用するかは、物件スペックと機関ごとの方針による。購入力の診断と並行して、対象物件の担保評価がどこに落ちるかを確かめるのが実務的な順序だ。

初めて1棟物件の購入を検討している段階なら、初めての1棟投資ははじめての1棟投資 無料相談で物件スペックと融資環境の両面から話を整理することを勧める。築年数と残存耐用年数に関する金融機関ごとのスタンスの違いは、実務の現場でなければ把握しにくい情報だ。

数字が先、物件が後──この順番が収益の差を作る

投資に失敗したA氏とBさんに共通していたのは、物件を先に気に入り、数字を後から当てはめようとしたことだ。A氏は「利回り11%」という数字に引っ張られ、残存耐用年数が出口に与える影響を計算しなかった。Bさんは「節税効果」という一点に焦点を絞り、売却時の流動性低下を定量的に確認していなかった。どちらも悪意ある業者に騙されたわけではなく、自分で判断を止めた場所があった。

築年数は過去の事実だが、残存耐用年数は未来の設計図だ。その設計図が、融資の条件、税務の時系列、売却の実現可能性を規定する。同じ物件でも、残存年数を起点に設計を組み直せば、まったく違う投資の顔が見えてくる。

あなたが今見ている物件の残存耐用年数は何年で、それは保有期間中に何を変化させるか──その問いに自分で答えられるかどうかが、判断の精度を分ける最初の関門だと思っている。

株式会社ウェルスターエージェンシー監修株式会社ウェルスターエージェンシー投資用1棟収益物件に特化した不動産仲介・コンサルティング会社。CF・IRR・DSCRを重視した数値ベースの投資判断と、融資戦略・出口戦略まで一貫して支援。東京都中央区に拠点を置き、首都圏・名古屋・関西圏の投資家へのアドバイザリー実績多数。宅地建物取引業免許 / 東京都知事(4)第92706号公式サイト wellstar-agency.com →

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配信: 株式会社ウェルスターエージェンシー

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