WELLSTAR AGENCY COLUMN
築古アパートの利回り12%——売主資料にそう書かれていても、20年後の出口で正味いくら残るかは別の話だ。残存耐用年数が薄くなった建物は、いずれ買い手の融資が付かなくなり、建物付きのまま市場に出すと「建付地割引」を受けて土地値さえ下回ることがある。築古投資のIRRを実態で読むには、保有期間中のキャッシュフローだけでなく「建物を解体して更地で売る」という二系統目の出口を、購入前から数字で組み込んでおく必要がある。
前回の「物件の築年数と残存耐用年数が投資収益に与える影響」では、築年数が融資・税務・売却の未来を規定する変数だという話に触れた。今回はその先——築古の出口が二系統に分かれる構造と、解体IRRを成立させる前提条件、実勢土地値の置き方を、現場の事例とともに整理しておきたい。
築古の出口は建物付き売却と更地売却に分かれる
築古物件の最終出口は、保有期間中のどこかで二択に分岐する。一つは建物が残ったままの売却、もう一つは建物を解体して更地で売却する道だ。前者の価格は次の買い手の融資可能額に収束する。残存耐用年数が5年を切ると、金融機関の建物評価がほぼ立たず、融資期間も土地評価分の短期に圧縮されるため、買い手は実質的に現金層に絞られていく。需要が薄くなれば価格は当然落ちる。
後者は逆に、建物の価値をゼロ前提に置き、土地の実勢価格で勝負する。古家付きのまま売ろうとすると、買い手は「自分が解体する想定」で査定するため、解体費の100〜150%が値引き材料になる。木造でも200万〜400万、軽量鉄骨で400万〜700万、RC造なら1,000万を超える解体見積もりが、そのまま土地値からの控除として表に出てくる。これが建付地割引の正体だ。
建付地割引が効き始めるタイミングを見誤らない
建物付き売却と解体売却の損益分岐点は、おおむね残存耐用年数5年前後で訪れる。残5年を境に、地域の信用金庫や地方銀行が建物評価をほぼゼロ扱いに切り替えるためだ。木造築22年・軽量鉄骨築27年・RC築47年を超えたあたりから、融資付き買い手の絶対数が急減し、購入候補が現金投資家・建売業者・隣地所有者に絞られていく。
横浜市内で木造1棟アパートを保有するA氏(50代・会社経営)は、築28年・8戸・購入時表面利回り11%の物件を10年保有した。当初は「築古でも土地値があるから安心」という説明を受けて取得したが、保有14年目(築42年)で売却に動いたとき、業者査定は土地値マイナス解体費の見立てだった。元付業者が出してきた価格は4,200万円。隣接する更地の路線価ベース実勢価格は5,600万円。差額の1,400万円が、まさに古家分の建付地割引だった。最終的にA氏は売却を1年遅らせて自費解体に踏み切り、更地で5,300万円で成約した。解体費320万を差し引いた手取りは4,980万円。建物付き売却より約780万円多く残った計算になる。
A氏の判断が正解だったのは、対象地が再建築可・接道4mの整形地で、近隣に小規模建売業者の引き合いがあったことが大きい。条件が違えば、解体費だけが先に消えて買い手が現れない、という展開もありうる。
解体IRRを成立させる4つの前提条件
解体して土地で売る出口は、どんな物件でも成立するわけではない。物件評価の段階で次の4点を確認しておく必要がある。一つでも欠けると、解体IRRの数字が机上の楽観値に化ける。
| 前提条件 | 確認方法 | 欠けたときの影響 |
|---|---|---|
| 再建築可(接道2m以上) | 建築計画概要書・公図・道路台帳 | 更地でも市場価格の6〜7掛けに沈む |
| 解体費の事前織込み | 3社相見積(坪単価で概算可) | 出口で500万〜1,000万のズレ |
| 実勢土地値の妥当性 | 路線価÷0.8で逆算・周辺取引事例 | 地価想定がずれIRRが反転 |
| 譲渡所得税の取扱い | 個人=長期20.315%/法人=実効26〜33% | 税後IRRが1〜2%下振れ |
再建築可の論点は特に重い。43条但し書き道路や2項道路接道幅員不足の物件は、古家付きの状態でも「現況で住宅として使われているから価値がある」という建付け評価が市場に立っているため、解体すると逆に減価する。築古投資で再建築不可物件に手を出すなら、最終出口は「保有のままの収益還元売却」一本に絞らざるを得ない。
解体費の概算は、木造で坪3万〜5万、軽量鉄骨で坪5万〜7万、RC造で坪7万〜10万を目安に置く。延床100坪の木造アパートなら300万〜500万、延床150坪のRC造なら1,000万〜1,500万のオーダーだ。1980年代までに施工された建物はアスベスト含有が確認されると除去費が別途数百万単位で乗るため、築年・施工時期によっては事前調査費(10〜30万)も購入時の諸費用に積んでおきたい。地中障害(旧基礎・浄化槽の残置・井戸跡)が出ると、さらに100万〜300万のオーダーで上振れする。築古土地値投資では、解体費を「購入時の含み債務」として簿外で意識しておく姿勢が結局のところ正しい。
税の取扱いは、出口時の所有形態で大きく変わる。個人保有で5年超の長期譲渡なら20.315%、5年以内の短期譲渡なら39.63%。法人保有なら所得帯に応じて23〜33%程度の実効税率が乗る。築古は保有期間中に減価償却で帳簿価格を下げ切るため、出口の譲渡益が「売却価格マイナス簿価」の差として大きく算出されやすい。シミュレーション段階で税後の手取りまで見ておかないと、解体IRRは見かけより1〜2%下振れる。
実勢土地値の置き方——路線価÷0.8
解体IRRの数字を握っているのは、20年後の土地値想定だ。社内分析では「路線価÷0.8」で実勢土地値を逆算する手法を標準にしている。路線価は公示価格の8割で評価される建前のため、0.8で割り戻すことで国税庁ベースの実勢推計に近づく。さらに地域の取引事例から再現価格を取り、上下10%の感度幅を取って中央値で運用する。
埼玉県川口市で軽量鉄骨1棟(築35年・10戸・取得時5,400万円)を保有するB社(資産管理法人・代表は40代の医師)は、保有18年目の出口設計を、購入時の事業計画書段階で解体ベースに置いていた。前面道路6m・整形地220㎡・路線価18万円/㎡の物件で、実勢土地値は路線価÷0.8の計算で約4,950万円。20年後の地価想定を「現状横ばい」で置いた場合と、「年率0.5%下落」で置いた場合の2パターンでIRRを並べ、後者でも保有期間中の累計税後CF+出口土地値-簿価で税後IRR5.8%が確保できる確認をしてから取得を決めている。
地価想定を保守に振る癖をつけておくのは、築古投資においては習慣にしてよい。横浜の事例にしても川口の事例にしても、20年後の地価が現状より大きく上がるシナリオで初めて成立するIRRは、購入の根拠としては脆い。横ばいか緩やかな下落でも数字が立つ物件を選ぶ、という基準を持つことが、結局のところ最大のリスク管理になる。
築古IRRは土地8割・建物2割の重みづけになる
築古物件の購入判断を数字で組み立てるとき、保有期間中のCFと出口の土地値、どちらに重きを置くかで判断が割れる。社内の経験則では、築古は「土地値が主役・建物は減価償却の燃料」という重みづけが実態に合う。
建物部分は保有期間中に減価償却で帳簿価格をゼロまで落とし、その償却費を税務上の損金として使い切る。出口で建物に価値を期待しない代わりに、保有期間中のキャッシュ循環の効率を最大化する道具として使う、という割り切りだ。その前提で見ると、購入時に注目すべき指標は「土地値÷取得価格」の比率になる。この比率が60%を超える物件は、解体出口でも元本回収の目処が立ちやすい。50%を割り込む物件は、保有期間中のCF依存度が高くなりすぎ、空室や家賃下落で簡単にIRRが崩れる。
横浜のA氏の事例を数字で整理しておくと、取得価格5,800万円・土地値3,900万円(取得比67%)・保有14年間の累計税後CFが約2,150万円、出口の更地売却が5,300万円(解体費320万差引後4,980万円)。元本5,800万円に対して保有14年で受け取った税後手取りは累計2,150万+出口4,980万=7,130万円。返済元本の返済済額(取得時オリックス3,800万円借入・残債1,200万)を差し引くと、自己資金2,000万円に対する税後IRRは概算6.3%。表面利回り11%という購入時の数字からは想像しにくいが、減価償却切れ後の所得圧迫と保有後半の空室増を吸収した上での実効リターンは、結局この水準に落ち着く。
解体出口モデルが向く物件・向かない物件
築古でも解体出口の数字が成立しやすい物件には、いくつかの共通点がある。一つ目は土地値率が高いこと。前述の60%目安を満たし、できれば70%を超えていると安心感が増す。二つ目は接道条件が良いこと。前面道路4m以上・間口5m以上・整形地という三要素が揃うと、解体後の販売チャネルが広がる(建売業者・自己建設の個人・小規模デベ)。三つ目は周辺に売買事例が豊富にあること。直近1〜2年の成約事例が複数取れる立地なら、20年後の地価想定にも一定の根拠が持てる。
逆に、解体出口が成立しにくい物件もはっきりしている。再建築不可・地形が極端に不整形・崖地や擁壁付き・市街化調整区域・前面私道で地主の承諾が必要、といった条件が一つでも該当すると、解体しても買い手が限定的になる。築古の土地値を当てにした投資判断は、こうした物件では成立しない。表面利回りの高さに引きずられて取得し、出口で土地が売れずに長期持ち合いを強いられる、という展開は珍しくない。
もう一つ見落とされやすいのが、再建築は可能だが建ぺい率・容積率の余剰がない物件だ。現行の建築基準法に照らして既存不適格になっている古い建物は、解体して建て直すと延床面積が縮む。買い手の建売業者やデベは、再建築後の収益性で土地価格を逆算するため、想定戸数が減るとそのまま入札価格が下がる。築古土地値投資は、現状の建物だけでなく、将来そこに何が建つかという視点で土地を選ぶ姿勢が必要になる。
築古投資の意思決定を整理すると、結局のところ「この土地は、建物が消えたあと、いくらで売れるか」という一点に集約されてくる。建物の収益力は保有期間中の燃料に過ぎず、本当の元本は土地にあるという感覚を、購入前のシミュレーション段階で持っておけるかどうか。それが、表面利回り11%の物件と税後IRR6%の物件の間に横たわる、見えにくい差を埋める唯一の方法だと考えている。
あなたが今検討している築古物件は、建物を解体した瞬間に、いくらで売れるだろうか。その答えが用意できないうちは、購入の決断はまだ早い。
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配信: 株式会社ウェルスターエージェンシー






