WELLSTAR AGENCY COLUMN
「エレベーターあり」の物件で利回り計算が狂う理由
先日、大阪市内で3棟目の購入を検討している40代の会社員・D氏から連絡が来た。「表面利回り8.2%の物件なのに、なぜ融資担当者が難色を示すのか分からない」という内容だった。物件資料を見ると、築24年・6階建て・20戸のRC造マンションで、エレベーターが1基。月々の管理費内訳を確認すると、保守費が月3万円と記載されていた。これが問題の根だった。
エレベーターの保守費は、物件の規模・築年数・契約形態によって月3万円から15万円以上まで幅がある。しかも保守契約料だけで話は終わらない。定期的な部品交換、そして20〜30年周期で訪れる「機器更新」という巨大な一時費用が控えている。にもかかわらず、利回り計算をする際にエレベーター関連費用を「管理費の中の一項目」として雑に扱っている投資家は少なくない。
この記事では、エレベーターの費用構造を分解し、実質利回りへの影響を数値で示す。物件購入の判断基準を精緻にしたい中級投資家に向けた内容になっている。
保守費用の構造:3つの層で考える
エレベーターのコストは、①日常保守契約料、②定期部品交換費、③機器更新(リニューアル)費用の3層で成り立っている。これらを混同したまま利回り計算に組み込むと、毎月の収支とストック(修繕積立)の区別が曖昧になり、キャッシュフロー予測が崩れる。
日常保守契約には「フルメンテナンス(FM)」と「POG(Parts・Oil・Grease)」の2種類がある。FMはメーカーや専門業者が部品交換費用を保守料に含めて一括管理するタイプで、月額は高いが突発費用が発生しにくい。POGは定期点検・油脂補充・軽微なグリスアップのみで、部品交換は別途実費請求となる。
低価格を売りにしている独立系業者のPOG契約は月2万〜3.5万円程度が相場だが、部品交換が発生するたびに追加請求が来る。年間で5万〜20万円の変動費が乗ることは珍しくない。一方でFM契約はメーカー系で月5万〜10万円、独立系でも月4万〜7万円が目安となる。
重要なのは契約形態よりも「その物件の築年数と機器の状態」だ。築10年未満の物件ならPOGでも大きな問題は起きにくい。だが築15年を超えると部品の劣化スピードが上がり、POGの実態コストはFMと大差なくなることが多い。それどころか、頻繁な追加請求と対応の煩雑さを考えると、FM契約に切り替えたほうが費用管理しやすいケースもある。
機器更新費用が利回りをどこまで引き下げるか
日常保守費がいかに最適化されていても、機器更新の費用を長期CFに組み込んでいなければ利回り計算は片手落ちだ。エレベーターの機器更新費は1基あたり600万〜1,500万円が相場で、建物の規模・スピード(定員)・停止階数によって大きく異なる。6階・定員9人程度の小型機でも、メーカー系施工なら800万〜1,000万円は見ておく必要がある。
仮にエレベーター1基を保有する20戸の物件で、25年に1度の更新費用を900万円と想定する。これを月次コストに均すと、900万円÷300ヶ月(25年)=月3万円。年換算で36万円が「見えないコスト」として毎年積み重なっている計算になる。
年間賃料収入が1,200万円(月100万円)の物件であれば、更新積立だけで実質利回りが0.3%下がる。そこに日常保守費(月5万円×12=年60万円)、修繕対応費、管理費を合わせると、表面利回り8%の物件が実質6%台に収まることは普通に起きる。
物件の真の収益性は物件シミュレーションPro Ver.7.0でCF・IRR・DSCRを試算して見極められる。特に長期保有を想定する場合、エレベーター更新費用を「何年後に・いくら」と明示的に設定できるツールでシミュレーションしておくべきだ。
築年数別に見る、エレベーター費用の現実
横浜市神奈川区で築28年・8階建て・24戸のRCマンションを保有するA氏(50代・会社経営・子ども2人)のケースを振り返ると、エレベーター費用の怖さが数字でよく分かる。A氏がこの物件を取得したのは2018年のこと。購入価格は1億8,500万円、表面利回りは8.4%。当時のエレベーター保守は月45,000円のPOG契約で、A氏も「月5万円以下なら問題ない」と軽く見ていたという。
購入から3年後、制御盤の老朽化による基板交換が発生し、部品代・施工費を合わせて約120万円の臨時支出。さらに翌年、巻上機の異常が発覚して修理費が85万円。2年間で約200万円の臨時出費が重なり、実質的な年間NOIは購入時の計算より160万円近く削れた。更新費用の積立を一切していなかったA氏には大きな誤算だった。
「管理会社から月次報告書は毎回受け取っていたのに、エレベーターの欄は数字を眺めるだけで止まっていた。実際にどんな部品が何年で何円かかるか、買う前に一度も調べたことがなかった」
A氏・50代会社経営者
A氏のケースは失敗とも言い切れないが、購入時に費用構造を正確に把握していれば、価格交渉の材料にもなり得たし、修繕積立の設計も変わっていたはずだ。
一方、埼玉県川口市で2棟目として築21年・5階建て・18戸のRCを購入したB氏(40代・医師・既婚)は、購入前にエレベーターの設置年と保守契約書の原本を売主に開示させた。物件価格は1億2,300万円、表面利回り7.9%。保守契約はFM契約で月62,000円。機器の設置は1998年で、当時の設置から既に26年が経過していた。つまり購入直後に更新が必要なタイミングだった。
B氏はこの事実を根拠に価格交渉を行い、更新費用850万円の70%相当である595万円の値引きを要求。最終的に400万円の値引きで合意し、1億1,900万円での取得となった。購入後1年でエレベーター更新を実施し、費用は実費910万円。値引き分と手元積立を充当し、キャッシュアウトは自己負担510万円にとどめた。更新後の実質利回りは7.4%で着地し、「5年後以降のCFは相当安定する」とB氏は話す。
この2件の差は、情報の取り方と価格への反映の有無に集約される。
| 比較項目 | A氏(横浜・築28年) | B氏(川口・築21年) |
|---|---|---|
| 購入価格 | 1億8,500万円 | 1億1,900万円(値引き後) |
| 表面利回り | 8.4% | 7.9%→実質7.4% |
| 保守契約形態 | POG・月4.5万円 | FM・月6.2万円 |
| 購入後の臨時費用 | 2年で約200万円 | 更新費910万円(値引き・積立で吸収) |
| 購入前のEV調査 | ほぼ未確認 | 設置年・保守契約書を開示確認 |
購入前に確認すべきエレベーター情報の絞り込み
物件購入のデューデリジェンスでエレベーターに関して確認すべき情報は、大きく4つに絞られる。
まず設置年と機器メーカー。設置年から現在までの経過年数と、更新時期の目安を把握する。国土交通省のガイドラインでは、エレベーターの耐用年数は概ね20〜25年とされているため、設置から20年を超えていれば購入後5年以内に更新が生じるリスクがある。メーカーが既に倒産・撤退している場合(一部の国産・外資系メーカーで実例あり)、部品調達が困難になり更新を早める必要が出ることもある。
次に現行の保守契約書の原本確認。契約形態(FM/POG)、契約業者、契約更新日、費用の年間推移を記録したメンテナンス台帳があれば、過去の修繕頻度も読み取れる。
3つ目は法定検査(定期検査)の直近報告書。建築基準法第12条に基づき、エレベーターは年1回の定期検査が義務付けられており、報告書には「要是正」「指摘なし」の判定が記載される。「要是正」が複数年続いている場合、近いうちに修繕費が発生する可能性が高い。
4つ目は修繕履歴。過去の修繕・部品交換の内容と費用が記録されているかどうか。これが整備されていない物件は管理状態を疑うべきだ。
実質利回りへの組み込み方:CF計算の具体的な手順
エレベーター費用を実質利回りに適切に織り込むには、費用を「毎月発生するランニングコスト」と「将来の一時費用の均し積立」に分けて計算する。
ランニングコストは保守契約料(月額)+年間部品交換費の月次換算で計上する。POG契約であれば過去3年の実績から平均を出し、実績がなければ「月3万円+年間10万円(部品)」を最低ラインとして想定する。
一時費用の積立は、(更新費用の見積もり)÷(更新まで残り月数)で月次換算する。更新まで10年あり更新費が800万円なら、月約6.7万円の積立換算コストになる。これをNOI計算の「経費」として組み込む。
たとえば先述のD氏の物件(賃料月収100万円・20戸・6階・築24年)でこの計算を当てはめると、年間賃料収入1,200万円に対して、保守費年72万円(月6万円FM)、更新積立年54万円(残存6年・更新費900万円想定)、その他修繕費・管理費を合算すると年間経費計は約450万円程度になる。NOIは750万円、実質利回りは取得価格2億円想定なら3.75%。表面8.2%からの乖離は相当大きい。
自分が今この物件を買える財務体力があるかどうかは、1棟投資 購入力診断で30秒で分かる。費用構造を正確に把握した上で、現在の保有状況や借入余力に照らした判断をすることが収益の持続性に直結する。
出口戦略から逆算するエレベーター管理の意味
エレベーターは売却時の査定にも影響する。買い手は「次の更新まで何年あるか」を必ず確認する。更新が近い物件は、それだけで値引き交渉の材料にされる。B氏がそれを逆手に取って価格を引き下げたように、売り手の立場になったときも同じロジックで買い手から攻められる。
逆に言えば、更新直後の物件は出口で有利に動く。「更新済み・残存20年以上」と堂々と言える状態にしておくことは、売却価格の防衛になる。特に転売を前提にした5〜10年保有のスキームで考える場合、エレベーター更新のタイミングを保有期間中に終わらせておくか、更新費を価格に反映させて入口で抑えておくかの二択が明確になる。
売却タイミングを探っている場合、保有物件の現在価値は無料査定で確認できる。エレベーターの状態が査定にどう反映されるかも、担当者に直接確認しておく価値がある。
エレベーターは「あるだけで賃料が高く取れる設備」だが、同時に「管理を怠ると収益を静かに削り続ける設備」でもある。この二面性を理解した上で物件選別できているか──それが1棟目と2棟目以降の投資家を分かつ差の一つだと、現場を見ていると改めて感じる。
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配信: 株式会社ウェルスターエージェンシー





