境界未確定物件の評価とローン可否──実務で見える景色

WELLSTAR AGENCY COLUMN

「境界が確定していないだけで、こんなに話がこじれるとは思っていなかった」──川口市内で3棟を保有する投資家から、そう連絡が入ったのは売買契約の直前だった。物件自体は築18年の木造アパート、表面利回りは9.2%。価格も相場より600万円ほど安く、一見すると掘り出し物に見える。だが、融資の審査に入った瞬間から話は変わり始めた。

「境界未確定」が意味する法的・実務的な位置づけ

境界未確定とは、隣地との境界線が法的に確認・確定されていない状態を指す。登記簿上に地積が記載されていても、それは「登記地積」であり、測量によって実測した「実測地積」と一致するとは限らない。特に古い宅地や農転地、分筆が繰り返された土地では、登記地積と実測値が数パーセントから十数パーセント乖離していることは珍しくない。

境界の確定には大きく二つの種類がある。一つは官民境界(道路や水路など公有地との境界)、もう一つは民民境界(隣地同士の境界)。前者は市区町村や国との協議が必要で、場合によっては1年以上かかる。後者は隣地所有者との立会いと確認書面が必要だが、相続未了の土地が隣接していると所有者の特定から始めなければならず、これも数カ月単位の作業になる。

売買における「現況有姿」という表現は、しばしばこの問題を曖昧にしたまま流通させる隠れ蓑になる。契約書に「境界は現地の杭・フェンス等による」と書かれていても、それが法的に確定された境界を意味しないことは多い。買主が後から測量をかけた際に、実際の土地面積が登記地積より小さかったり、越境が発覚したりするケースは、中古収益物件の取引では継続的に発生している。

金融機関が担保評価を下げる構造的な理由

収益物件の融資審査において、境界未確定は担保評価を直接的に毀損する。金融機関の内部基準は各行で異なるが、概ね次のような評価ロジックが働く。

まず、土地の担保評価は路線価や固定資産税評価額をベースに算出されるが、「正確な地積が確定していない」という状態は評価算出の前提を崩す。「300㎡の土地として評価してほしい」という要求に対し、それが登記地積であって実測地積でないなら、金融機関は保守的に見積もるか、あるいは評価を保留する。

次に、担保物件として設定する際に「境界確定図」の提出を求める金融機関は少なくない。地方銀行や信用金庫では、融資稟議の条件として確定測量図の添付を義務付けているケースがある。これがないと稟議が通らない、あるいは通っても「条件付き融資」として実行が遅れる。

15〜30%
境界未確定時の担保評価減額幅(地銀・信金の一般的な範囲)
3〜18ヶ月
官民境界確定にかかる標準的な期間
約6割
築20年超の木造収益物件で境界未確定が残存する割合(筆者概算)

ノンバンクや一部のファンド系金融機関は境界未確定でも融資実行することがあるが、その分、金利や手数料に上乗せされるか、LTVを厳しく絞られる。表面利回り9%の物件が、融資条件の悪さによって実質的なキャッシュフローを圧迫するのは、こういった構造からだ。

審査謝絶の実態──川口市の案件で起きたこと

冒頭で触れた埼玉県川口市の案件に戻る。投資家はAさん(40代・会社員・家族3人)。すでに川口市と蕨市に計3棟を保有しており、4棟目を検討していた。物件は築18年の木造アパート8戸、価格6,800万円、実表面利回り9.2%。メインで使っている地方銀行に打診したところ、担保評価が出ない──という回答が返ってきた。

理由は二つあった。一つは、南側隣地との民民境界が未確定であること。もう一つは、西側の市道との官民境界についても確定図が存在しないことだった。銀行側は「確定測量図の提出が条件」と伝えてきたが、売主は「費用負担は買主持ち」との立場を崩さなかった。測量費用の見積もりは官民・民民含めて約90万円。それだけなら許容範囲だが、問題は期間だった。官民境界の確定には市の窓口を通じた協議が必要で、担当者から「早くて6カ月、場合によっては1年以上」と言われた。

契約の有効期限は3カ月。Aさんは融資特約の期間内に融資承認を取れる見込みが立たず、いったん見送った。その後、同物件は他の買い手に6,500万円で売れたが、相手は現金購入者だった。Aさんにとってはローンが使えない物件は検討対象から外れる以上、この判断は合理的だったが、「境界だけで300万円分のディスカウントを取れた人間と取れなかった人間に分かれた」という事実は、後になってじわじわと響いたと話していた。

「測量費用90万円は出せても、6カ月〜1年という時間は出せなかった。融資特約の期間を延ばせれば話は違ったかもしれない」

Aさん・40代会社員・川口市在住

買える人間と買えない人間を分ける変数

境界未確定物件を「買える状態」に持っていくための条件は、いくつかの要素が絡み合っている。単純にキャッシュリッチかどうかという問題だけではない。

まず、融資の組み方として、確定測量を「融資条件の後付け」にしてくれる金融機関を使えるかどうかが一つの分岐になる。「実行前に確定図必須」ではなく、「融資後○年以内に確定測量を完了すること」を特約として入れてくれる金融機関は存在する。主にノンバンク系や一部の信金が対応しているが、それには既存の取引実績や属性の裏付けが必要になることが多い。

次に、売買契約の構造で解決できる場合がある。価格交渉の中で「売主負担で確定測量を完了させること」を条件にする手法だ。売主側に測量費用を出す余力があれば成立するが、相続絡みの売却案件では共有者間の合意が必要になり、話がまとまらないことも多い。

また、物件の「境界未確定のリスク度」を見極める視点も欠かせない。隣地が更地や駐車場で、かつ所有者が法人や個人で連絡の取れる状態なら、民民境界の確定は比較的早期に完了できる。一方で、隣地が相続未了・空き家・行方不明者の所有地といった状況では、境界確定が現実的に不可能に近い場合さえある。

隣地が空き家・相続未了の場合の解決困難度 85%
官民境界のみ未確定の場合の解決困難度 55%
民民境界のみ・隣地所有者が明確な場合の解決困難度 30%
官民・民民ともに未確定の場合の解決困難度 90%

逆に「使える局面」がある──大阪の事例から

境界未確定は常に障害になるわけではない。状況によっては、それを武器にした価格交渉が成立し、かつ融資も通るケースがある。

大阪市淀川区で4棟を保有するBさん(50代・自営業・夫婦2人)は、2年前に築22年の鉄骨造アパート12戸を購入した。当初の売り出し価格は1億1,500万円、表面利回り8.1%。Bさんが現地確認と書類精査を行ったところ、北側隣地との民民境界が未確定であること、かつ隣地との間に越境の可能性があるフェンスが存在することを確認した。

Bさんはここで動きを変えた。境界未確定と越境可能性の二点を根拠に、「測量費用・越境解消費用を売主負担とし、かつ価格を9,800万円まで引き下げること」を交渉条件として提示した。結果として成約価格は1億200万円、測量費用(約110万円)は売主負担、越境は隣地所有者との協議で解消という形に落ち着いた。

融資は地方銀行ではなく、大阪に本拠を置く信用金庫を使った。Bさんとの長年の取引実績があり、「測量完了を条件として融資実行」ではなく、「境界確定作業中でも融資実行可能・完了後に確定図を提出」という対応をしてもらえた。融資額は8,000万円、金利1.95%(変動)。実際に確定測量が完了したのは融資実行から約8カ月後だった。

Bさんの判断の核心は、「境界未確定というリスクを、自分でコントロールできる範囲かどうか」を見極めたことにある。隣地は個人所有の一戸建てで、所有者も在住・健在。民民境界の確定に時間はかかるが、合意形成は十分に可能な状況だった。それを見越した上で、価格交渉の材料として使い、融資対応力のある金融機関と組んだ。

「境界未確定というだけで敬遠する人が多いから、競合が減る。隣地の状況を先に調べれば、リスクかどうかは大体わかる」

Bさん・50代自営業・大阪市淀川区

実務で使える確認フロー──買い付け前にやること

境界未確定物件に対してどう動くかは、買い付け前の情報収集の質で決まる。以下は筆者が現場で繰り返し使っているアプローチだ。

登記・図面の読み方

まず公図と登記簿謄本で地積を確認し、確定測量図または現況測量図の存在を確認する。確定測量図がなければ、現況測量図や地積測量図があるかを確認し、それもなければ「測量未実施」の可能性が高い。法務局で取得できる地積測量図は過去の測量時のものであり、隣地との境界確認書が添付されているかどうかで「確定済み」かどうかの手がかりになる。

次に役所で道路台帳を確認し、対象地と市道・区道との官民境界について確定図が存在するかを調べる。土木管理課や道路管理課の窓口で対応してもらえるが、混雑していることも多いため、時間に余裕を持った動きが必要だ。

隣地の状況確認

民民境界の確定可能性を左右するのは、隣地の状況だ。現地を訪れ、フェンスや構造物の位置、管理状況を目視する。隣地が空き家や更地であれば登記簿で所有者を確認し、相続未了(所有者が死亡しているが相続登記がされていない)かどうかを見る。法定相続情報や相続人調査は専門家に依頼しないと難しいが、登記の名義と現況の乖離を確認するだけでも、リスクの大きさはある程度見えてくる。

境界未確定物件の評価は「未確定かどうか」ではなく「確定できる状態かどうか」で決まる。隣地の状況と金融機関の対応力、この二軸が揃って初めて収益性の計算が成立する。

融資戦略としての金融機関の使い分け

境界未確定物件に対して、どの金融機関がどのような対応をするかをある程度把握しておくことは、複数棟を持つ投資家には実用的な知識になる。

金融機関の種別 境界未確定への対応 特記事項
メガバンク 原則として確定測量図必須・融資謝絶が多い 稟議基準が全国統一で例外対応が難しい
地方銀行 確定図を融資条件にするケースが多い 支店担当者の裁量や取引実績次第で交渉余地あり
信用金庫 取引実績があれば条件付き融資実行も可 エリア密着型なので事前相談が有効
ノンバンク(アパートローン系) 境界未確定でも融資実行することがある 金利・手数料・LTVで条件悪化を吸収している
日本政策金融公庫 担保評価よりも事業計画重視のため対応可能な場合も 収益物件向けは限定的、用途によって異なる

この表はあくまで傾向であり、同じ金融機関でも支店・担当者・タイミングによって回答は変わる。ただ、「このタイプの物件はどの金融機関に相談すれば話が進みやすいか」という感覚を持つことは、時間とコストを節約することに直結する。何の準備もなくメガバンクの窓口に境界未確定物件を持ち込むのは、時間の損失にしかならないことが多い。

また、保有物件の実績と返済履歴が蓄積されている金融機関に対しては、「取引先の優位性」として境界未確定物件の条件緩和を交渉することは実際に可能だ。新規取引先として境界未確定物件を持ち込むよりも、既存の取引行に対して追加融資のかたちで交渉する方が、条件面での柔軟性を引き出しやすい。複数棟を保有している段階にある投資家が、既存の金融機関との関係を戦略的に使う場面がここにある。

保有後に発覚した場合の対処

すでに購入してしまった物件で後から境界未確定が発覚する、あるいは購入時に「後でやればいい」と先送りにしたケースも存在する。この場合、問題が表面化するのは主に二つのタイミングだ。一つは売却時、もう一つは隣地の建替え・売却が発生した時だ。

売却時に境界未確定が残っていると、買主側から価格交渉を受けるか、確定を求められて費用・期間の負担が生じる。買主が融資を使う場合は融資謝絶・融資遅延の原因になり、契約破断のリスクも伴う。

隣地の建替えや売却が発生した場合は、隣地側から境界の立会いを求められることがある。この機会を活かして民民境界を確定させておくことは、費用を折半できる可能性もあり、むしろ好機になる。隣地所有者の動きを察知できれば、先手を打って測量事務所を動かすことが得策だ。

保有中に自発的に境界確定を進める場合、費用は状況にもよるが民民境界のみで30〜60万円、官民も含めれば80〜150万円程度が目安になる。これを「今は費用がかかるが、将来の売却や再融資の際に回収できる先行投資」として位置づける視点は、長期保有戦略として合理性がある。

境界未確定物件の扱いに慣れると、逆に「未確定のまま誰も触れていない物件」の中に割安な案件が眠っていることに気づく。それが本当に割安なのか、それとも誰も手を出せない地雷なのかを見分ける目が、次のステージへの入口になる。あなたが今保有している物件の中に、まだ確認していない境界はないだろうか。

株式会社ウェルスターエージェンシー監修株式会社ウェルスターエージェンシー投資用1棟収益物件に特化した不動産仲介・コンサルティング会社。CF・IRR・DSCRを重視した数値ベースの投資判断と、融資戦略・出口戦略まで一貫して支援。東京都中央区に拠点を置き、首都圏・名古屋・関西圏の投資家へのアドバイザリー実績多数。宅地建物取引業免許 / 東京都知事(4)第92706号公式サイト wellstar-agency.com →

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配信: 株式会社ウェルスターエージェンシー

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