損益通算ができる範囲とできない範囲の注意点

WELLSTAR AGENCY COLUMN

「黒字のはずが節税できていない」という矛盾が起きる理由

確定申告の時期になると、税理士から「今年は損益通算が使えませんでした」と告げられ、想定外の納税額に驚く投資家の話を何度も聞いてきた。不動産投資の損益通算は「赤字が出れば給与所得と相殺できる」という理解で止まっている人が多い。だが実務では、相殺できる所得の種類、相殺できない損失の種類、そして相殺の順序まで細かいルールが存在する。この細部を知らないまま運用していると、税務調査で指摘される前に自分で申告ミスを犯すことになる。

所得税法上、損益通算が認められるのは不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得の4種類の損失に限られる(いわゆる「損益通算できる4所得」)。給与所得や利子所得、配当所得が赤字になっても他の所得とは通算できないが、これは給与や利子がそもそも赤字になるケースがほぼないため実務上は問題にならない。中級投資家が本当に知っておくべきは、不動産所得の赤字であれば何でも通算できるわけではない、という点だ。

不動産所得の赤字で通算できるもの、できないもの

不動産所得に生じた損失は原則として他の所得と損益通算できる。ただし、土地取得のための借入金利子に対応する部分は損益通算の対象から除外される。これが実務で最も誤解されやすいルールだ。

具体的に言うと、1棟アパートを取得した際に土地と建物を一括でローンを組んでいる場合、借入金の利子のうち「土地部分に対応する利子」相当額は不動産所得の計算上は損金として認識されるが、損益通算においては切り捨てられる。建物価格比率が50%の物件で年間利子が200万円なら、100万円は損益通算に使えないことになる。このルールは租税特別措置法第41条の4が根拠で、土地転がしを利用した節税スキームを封じるために1992年に設けられたものだが、現在も当然に適用されている。

不動産所得の赤字が損益通算できない最大の例外は「土地取得の借入金利子に対応する部分」。特に低建物比率の物件を持つ投資家は、実際に通算できる損失額が想定より大幅に小さくなる。

もう一つ見落とされやすいのが「生活に通常必要でない資産」の貸付けによる損失だ。別荘やリゾートマンションのように、主として趣味・娯楽・保養を目的とする不動産から生じた赤字は、損益通算の対象にならない。居住用・賃貸用の区分が明確でないケースでは、税務署に「趣味的利用」と判断されないよう、賃貸実績や収益性の記録を丁寧に残しておく必要がある。

給与所得との通算順序と翌年以降への繰越

損益通算には「順序」がある。不動産所得の赤字はまず同じグループ内(不動産所得が複数あれば合算)で相殺され、それでも残った損失が他の所得と通算される流れだ。給与所得と通算できるのはそのあとになる。この流れ自体は特段複雑ではないが、「複数物件を保有している場合、物件ごとの損益を個別に通算するのでなく、まず不動産所得全体を合算してから判断する」という点は確認しておきたい。

損益通算を行っても引ききれない赤字、つまり純損失が残った場合は翌年以降3年間の繰越控除が認められる(青色申告者に限る)。白色申告では変動所得・被災事業用資産の損失など特定の場合を除き繰越は認められない。3棟以上を保有して規模が大きくなってくると、青色申告の有無が繰越控除の活用幅に直結するため、白色申告のままでいる理由はほぼない。

青色申告(複式簿記):純損失の繰越 3年
青色申告(簡易簿記):純損失の繰越 3年
白色申告:純損失の繰越 原則不可(0年)
白色申告(変動所得・被災損失のみ例外):繰越 1年

埼玉県川口市で起きた「土地比率の盲点」

埼玉県川口市内で2棟の1棟アパートを保有するA氏(40代後半・会社員・妻と子2人)は、築22年・8戸の物件を6,800万円で取得した際、土地と建物の価格配分を不動産会社の売買契約書記載のまま申告に使っていた。その配分は土地65%・建物35%。年間の借入利子は約240万円で、このうち損益通算に使える建物対応分は84万円(240万円×35%)にとどまる。残る156万円は損益通算の対象外となる。

A氏は毎年の確定申告で「不動産所得の赤字200万円を給与所得と通算した」と理解していたが、実際に通算できていたのは計算上44万円分だけだった(200万円の赤字のうち156万円は除外されるため)。5年分の申告を見直した結果、追加で支払うべき税額の合計が約65万円に上ることが判明し、修正申告を行った。税理士に相談したのが税務調査の指摘前だったため加算税は軽微だったが、「最初から土地比率を精査していれば」という後悔は残った。

「建物35%という数字が契約書に載っていたから、そのまま使えると思っていた。土地対応の利子が別ルールになっているなんて、知らなかった」

A氏・40代後半・会社員

売買契約書に記載された土地・建物の割付けは、必ずしも税務上の適正按分を意味しない。消費税の関係で建物側に価格を寄せてある契約書もあれば、逆に土地側が大きく計上されているケースもある。実際の固定資産税評価額や建物の再調達原価を参考に按分を見直すことが、損益通算の正確な計算につながる。

譲渡所得の損失が通算できない「居住用特例の壁」

不動産投資家が次に誤解しやすいのが、売却時の損失と他の所得の通算だ。不動産の売却で生じた譲渡損失は、原則として他の所得と損益通算できない。譲渡所得の損失は「分離課税」の枠内でしか扱われず、同じ年に複数の不動産を売却した場合は物件間で通算できるものの、給与所得や不動産所得とは通算できないのが原則だ。

例外として認められているのは、「居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」と「特定の居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」の2制度だ。どちらも「マイホーム」の売却に限定されており、収益用不動産(賃貸アパート・マンションなど)の売却損はここには当てはまらない。

原則NG
賃貸用不動産の譲渡損と給与所得の通算
例外OK
居住用マイホームの譲渡損(要件を満たした場合のみ)
3年
居住用特例適用時の繰越控除期間

投資用物件を売却して数百万円の損失が出た年に「その損失を給与所得と相殺できるはずだ」と確信して申告してしまう投資家がいる。税理士に依頼せずに自力で申告している場合、この誤りは申告書の段階では発見されにくい。税務署の調査で初めて指摘されるケースもあり、その場合は本税に加えて過少申告加算税(最大15%)と延滞税が課される。

大阪市淀川区の「売却損を通算できる」という誤信

大阪市淀川区内で築35年の区分マンション2戸を保有していたBさん(50代前半・フリーランスのデザイナー・単身)は、老朽化と管理費高騰を理由に1戸を売却し、取得価格1,450万円に対して900万円での売却となった。譲渡損失は550万円。Bさんは「この損失を今年の事業所得(約680万円)と損益通算すれば、大幅に節税できる」と考え、自力で申告を進めた。

結果として、税務署の文書照会を受けて誤りが発覚した。収益用の区分マンションの売却損は居住用財産の特例に該当せず、損益通算は認められない。修正申告後の追加納税額は所得税・住民税合算で約152万円。さらに過少申告加算税が約15万円加わった。Bさんは「マイホームを売った時の特例と混同していた」と話していたが、この混同は実際に非常に多い。居住用か収益用かという区分が、税務上の取り扱いを根本から変える分岐点になっている。

なお、収益用不動産の売却損は「他の収益用不動産の譲渡益」とは通算できる。同じ年に利益が出た物件と損失が出た物件を売却した場合、それらの損益を相殺したうえで課税所得を計算することは認められている。これを活用して、含み損のある物件と含み益のある物件を意図的に同年に売却するタックスプランニングは実務でも使われる手法だ。ただしこれは「分離課税の中での通算」であり、給与所得や事業所得との通算とは別の話だ。

減価償却費と実際のキャッシュフローの乖離をどう扱うか

築古物件の減価償却費を意図的に大きく取り、帳簿上の赤字を作って損益通算するスキームは以前から使われてきた。これ自体は適法だが、税務上の「実質」を無視した構造については近年、税務調査で厳しく見られるようになっている。特に短期間での高額な木造建物の取得(あるいは建物のみの取得)と売却を繰り返すケースは、「損失を作ることだけを目的とした取引」と認定されるリスクがある。

減価償却による損益通算を活用する場合、「不動産所得を生ずべき業務としての実態」があるかどうかが問われる。単発の取得・売却で減価償却費による損失だけを給与所得と通算するスキームは、税務当局の見解では「業務」の実態を欠くとして否認される可能性がある。継続的な賃貸業としての実態(複数年の賃貸実績・管理の実態・収益目的の合理性)が備わっていることが前提だ。

また、減価償却費は「非現金の費用」であるため、帳簿上は赤字でも実際のキャッシュは出ている。この乖離が大きいほど「節税効果を享受しながら手元資金も増える」という状態になるが、それはあくまで一時的な先送りに過ぎない。売却時には減価償却費の累計額だけ取得費が下がり、譲渡益が膨らむ。この「税の繰り延べ効果」を保有期間全体で設計しておかないと、売却時に想定外の課税を受ける。

損益通算を安全に使うための実務上の判断軸

損益通算を申告に組み込む前に確認すべき事項を整理すると、まず不動産所得の赤字のうち「土地対応の借入利子」を除外しているか、という計算上の確認がある。これは固定資産税評価額や建物再調達原価をもとに按分比率を合理的に算出し、毎年一貫した方法で適用することが求められる。途中で按分方法を変更すると税務署の質問を受けやすくなる。

次に、損失の発生原因が「業務としての不動産貸付」から来ているかどうかを自問する。趣味性の強い物件、稼働率が極めて低い物件、実態のない管理費の計上などがある場合は、損益通算の否認リスクが上がる。税務調査では損失が大きい年度が狙われやすく、特に損益通算によって納税額がゼロになっている年度は調査対象になりやすい傾向がある。

売却損については、収益用と居住用の明確な区分を常に意識することだ。「元々は自分が住んでいたが途中から賃貸に出した」という経緯のある物件は、居住用特例の適用可否が複雑になる。転居後3年を経過して売却した場合は居住用財産の特例が使えなくなるため、売却タイミングの設計が税額に直結する。

最後に、青色申告の届出を出しているかどうか。繰越控除を3年間活用するためには青色申告が不可欠で、その年の損失が大きければ大きいほど翌年以降の繰越効果も高くなる。物件数が増えてきた段階で白色申告を続けているのであれば、そこだけでも早急に見直す価値がある。

損益通算は「使える」というだけで満足してしまうと、実際にどの部分がどの程度使えているのかが曖昧なまま申告が続く。物件を複数保有してキャッシュフローが複雑になってきた段階こそ、自分の申告書の「損失の内訳」を一行ずつ確認し直すタイミングだ。あなたの申告書の中に、通算できないはずの損失が紛れ込んでいないか──そこから確認を始める価値は十分にある。

株式会社ウェルスターエージェンシー監修株式会社ウェルスターエージェンシー投資用1棟収益物件に特化した不動産仲介・コンサルティング会社。CF・IRR・DSCRを重視した数値ベースの投資判断と、融資戦略・出口戦略まで一貫して支援。東京都中央区に拠点を置き、首都圏・名古屋・関西圏の投資家へのアドバイザリー実績多数。宅地建物取引業免許 / 東京都知事(4)第92706号公式サイト wellstar-agency.com →

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