相続税評価額と実売却価格のギャップ|遺産分割後に損する相続人

WELLSTAR AGENCY COLUMN

「評価額より高く売れると思っていたのに、実際は全然違った」——相続後に不動産を売却しようとした相続人から、こういう話を聞く機会が増えている。相続税の申告が終わり、遺産分割協議もまとまった後に、初めてその現実を知る。そのときはもう、やり直しがきかない。

相続税評価額は「売れる価格」ではない

相続税の計算に使われる不動産の評価額(路線価方式または倍率方式)は、あくまでも課税の基準として設定された数値だ。国税庁が定める路線価は、地価公示価格の80%を目安に設定されており、理論上は実勢価格より2割ほど低くなる設計になっている。

ただし、これはあくまでも「理論上」の話だ。

現実の市場では、物件の個別条件——旗竿地・変形地・高圧線下・急傾斜地・再建築不可・道路幅員不足——によって、実売却価格が相続税評価額を大幅に下回るケースが珍しくない。逆に、人気エリアや駅近の土地では路線価の1.5倍以上で取引されることもある。評価額は実態と乖離した「行政上の数字」であり、市場価格と混同するとそのまま損失につながる。

80%
路線価の設定水準(地価公示比)
▲30〜50%
再建築不可物件の実売価格乖離幅
+20〜40%
人気エリア物件の評価額超過幅

相続税の概算は相続税目安チェッカーで3分で試算できるが、その数字と市場での売却可能額は別物だという前提を持つことが、分割協議を始める前に必要な認識だ。

評価額で分けた後に売ると何が起きるか

遺産分割協議では、不動産の「評価額」をもとに各相続人の取り分を調整することが多い。たとえば、相続財産の総額が6,000万円(不動産3,000万円+現金3,000万円)で、子ども2人が均等に相続する場合、「兄が不動産(評価額3,000万円)、弟が現金(3,000万円)」という分け方は一見公平に見える。

だが、不動産を引き継いだ兄が実際に売却しようとしたとき、査定価格が2,000万円だったとする。売却コスト(仲介手数料・譲渡所得税など)を差し引けば、手取りは1,700万円前後になる可能性がある。弟が受け取った現金3,000万円と比較すると、1,300万円近い差が生じる計算だ。分割協議の段階でこのギャップを把握していれば、代償金の調整や持分の組み換えによって是正できたはずなのに、協議が終わった後では手の打ちようがない。

「評価額=時価」という思い込みの根拠

多くの相続人がこの混同を起こす理由のひとつは、税理士が作成する相続税申告書の記載にある。申告書に「土地の価額:〇〇円」と書いてあれば、それを「この土地の価値」と受け取るのは自然な流れだ。しかし申告書における「価額」は課税のための計算値であり、市場での売買価格を保証するものではない。税理士も不動産の売却価格を算定するプロではないため、この点を積極的に説明しないケースも多い。

不動産会社による査定額と、路線価ベースの評価額を、同じテーブルに並べて比較する——これだけで見えてくるものが変わる。

実際に起きた損失:二つの事例

埼玉県川口市に住む田中さん(60代前半・元会社員・妻と子ども2人)は、父親の相続で市内の戸建て(築38年・延床86㎡・土地60坪)を引き継いだ。相続税評価額は2,800万円。現金が少なかった相続財産の中で最も大きな資産として、田中さんが単独で相続し、姉は預金と有価証券を受け取った。

ところが翌年、住み替えのために売却しようとしたところ、複数の不動産会社から出た査定額は1,700〜1,900万円。詳しく聞くと、その土地は前面道路の幅員が3.8メートルしかなく建築確認の取得に制約があること、隣地との境界が未確定であること、旧耐震基準の建物であることが複合的に価格を押し下げていた。最終的に1,750万円で売却したが、仲介手数料・解体費用・譲渡所得税を含めると手取りは1,350万円程度にとどまった。姉が受け取った金融資産の合計2,800万円と比べ、実質的な格差は1,450万円に達した。

「評価額で分けたから公平だと思っていた。売れる値段が全然違うなんて、誰も教えてくれなかった」

田中さん・60代・元会社員(埼玉県川口市)

一方、うまく立ち回ったケースもある。大阪市淀川区の木造一棟アパート(築22年・6戸・固定資産税評価額ベースで4,200万円)を相続した松本家では、長男(50代・自営業)が独自に不動産業者3社へ査定を依뢰したところ、査定額は5,600〜6,100万円と、評価額を大幅に上回った。淀川区は駅から徒歩8分圏内の賃貸需要が強いエリアで、満室稼働の実績が評価を押し上げていた。

この情報をもとに、松本家は分割協議を組み直した。長男がアパートを引き継ぐ代わりに、次男と長女に対して合計1,400万円の代償金を支払う形で合意した。評価額だけを基準にしていたら長男一人が5,000万円超の資産を独占する形になっていたが、市場価格を把握した上で代償金を設定したことで、三者とも納得できる着地点に落ち着いた。

評価額と実勢価格がズレやすい物件類型

どのような物件でギャップが大きくなるか。現場での経験から整理すると、大きく二方向がある。評価額より実勢価格が低い物件と、その逆だ。

再建築不可・旗竿地(評価額比▲30〜50%)
旧耐震・老朽化戸建て(評価額比▲20〜35%)
市街化調整区域内農地(評価額比▲15〜40%)
駅近・満室稼働アパート(評価額比+20〜40%)
都心マンション(評価額比+30〜60%)

再建築不可物件は特に注意が必要だ。土地面積があっても接道義務を満たしていない場合、現金購入者にしか売れないため市場が極端に狭くなる。路線価は隣接する敷地とほぼ同じ単価が適用されるが、市場では30〜50%引きが相場になることも珍しくない。相続税の評価額だけを見ていると、分割協議での「取り過ぎ」が後から判明する。

逆に都心マンションや稼働中の収益物件では、相続税評価額が実態を大幅に下回るケースがある。小規模宅地等の特例や貸家建付地評価の適用で、課税評価はさらに圧縮される。そのまま引き継いだ相続人が「評価額2,000万円」の物件を後に4,000万円で売却する事例は珍しくない。その場合、分割協議で同額の現金を受け取った相続人との間に事後的な格差が生じる。

遺産分割協議が終わる前に動くべき理由

遺産分割協議書に押印した後では、合意内容を変更するには全員の同意が必要になる。事実上、やり直しはほぼ不可能だ。つまり、不動産の実勢価格を把握するタイミングは、協議の前か、協議中でなければならない。

税理士への相続申告の依頼と並行して、相続する不動産については不動産会社への査定依頼を行うことを勧める。査定は無料で、複数社に依頼するほど精度が上がる。査定を断られる理由はなく、相続前でも「相続予定」として依頼できる。査定書は法的拘束力を持たないが、実勢価格の目線を把握するには十分な資料になる。

代償分割という選択肢を知っておく

不動産を一人が引き継ぎ、他の相続人には金銭で補償する「代償分割」は、分割の柔軟性を高める有力な手段だ。しかし代償金の額を決める際にも、評価額ではなく実勢価格を基準にしなければ意味がない。不動産を相続した側が後に高値で売れれば得をし、低値でしか売れなければ損をする。代償金の設定根拠を「評価額」にするか「実勢価格」にするかで、当事者間の公平性はまったく変わる。

なお、代償金の支払いには資金が必要になる。現金資産が少ない場合、不動産の売却資金を充てることを前提に協議を進めるパターンもあるが、売却に時間がかかった場合やローンが残っている場合の扱いについても事前に取り決めておかなければ、後のトラブルになる。個別の判断は相続不動産の無料相談を活用して、不動産の専門家と税理士を同席させた形で整理するのが現実的だ。

売却する気がなくても査定が必要な理由

「しばらく売るつもりはないから査定は不要」という判断は、実は遺産分割の局面では通じない。なぜなら、売却予定の有無にかかわらず、分割協議での不動産の「価値」をどう見るかは全相続人に関わる問題だからだ。

引き継ぐ本人だけが査定を知らない状態で協議に臨むのは、市場価格を知っている他の相続人——あるいは法定相続人の代理人弁護士——と交渉することになる。情報の非対称が、そのまま損得の非対称に直結する。

遺産分割協議における不動産の評価は、相続税申告のための評価額と、市場での売却価格の両方を手元に置いた上で行う。どちらか一方だけでは、「公平な分け方」の前提が崩れる。

さらに言えば、売却を検討するタイミングが将来的に来たとき、相続から3年10ヶ月以内であれば「相続税額の取得費加算特例」が使える可能性がある。この特例は、売却時の譲渡所得から一定の相続税額を取得費として控除できるもので、節税効果が数十万〜数百万円になることがある。特例を活用できる時期は相続開始から限られているため、売却を急いでいなくても、適用要件だけは早めに確認しておく価値がある。

分割後に損をしないための視点

相続の現場で繰り返し見るのは、「税務の処理は終わった、あとは分けるだけ」という油断だ。申告が済んだことで安心感が生まれ、分割協議が形式的な手続きとして処理される。しかし実際の損得は、申告書の数字ではなく、市場での売却価格によって決まる。

不動産を含む遺産分割で見落とされがちな観点を整理しておく。

確認項目 評価額ベース(税務) 実勢価格ベース(市場)
価格の根拠 路線価・固定資産税評価額 不動産会社の査定・取引事例
用途 相続税の課税計算 実際の売買・代償金設定
個別条件の反映 限定的(画地補正の範囲内) 接道・形状・旧耐震等を反映
取得のコスト 不要(税理士が算出) 査定依頼(無料)
分割協議への活用 「評価額」として使用されやすい 代償金・持分の調整根拠になる

相続税の申告期限は相続開始から10ヶ月。この期間内に分割協議も完了させるケースが多いが、焦りと情報不足が重なると、判断が雑になる。評価額と実勢価格、両方の数字を手元に置いた上で分割協議に臨めるかどうかが、最終的な手取り額に直結する。

相続した不動産を「持ち続けるか、売るか、貸すか」という出口の判断も、実勢価格を知ってはじめて現実的な選択肢が見えてくる。評価額しか知らない状態でその判断をするのは、地図を持たずに方向を決めるようなものだ。

あなたが今、分割協議の前にいるなら——まだ間に合う。査定を取る手間は、後の後悔に比べればはるかに小さい。

株式会社ウェルスターエージェンシー監修株式会社ウェルスターエージェンシー投資用1棟収益物件に特化した不動産仲介・コンサルティング会社。CF・IRR・DSCRを重視した数値ベースの投資判断と、融資戦略・出口戦略まで一貫して支援。東京都中央区に拠点を置き、首都圏・名古屋・関西圏の投資家へのアドバイザリー実績多数。宅地建物取引業免許 / 東京都知事(4)第92706号公式サイト wellstar-agency.com →

FOR SUBSCRIBERS

不動産投資コラムを
定期的にお届けします

1棟収益物件投資に役立つ、
実務家ならではの視点と最新の市況を、
LINEまたはメールでお届けします。
配信は週1〜2回。ご不要になれば、いつでも解除いただけます。

LINE

公式アカウントで受け取る

LINE QRコード

QRコードまたは下のボタンから追加

LINEで友だち追加
MAIL

メールマガジンで受け取る

1分で登録完了、いつでも解除可能

メールで登録する

配信: 株式会社ウェルスターエージェンシー

上部へスクロール