信託銀行と地銀の融資姿勢の違い

WELLSTAR AGENCY COLUMN

先日、埼玉県内で3棟を保有するB氏(40代・ITエンジニア)から相談を受けた。「信託銀行に打診したら、利回りが十分なのに断られた。地銀ではすぐ通ったのに、何が違うのか」という内容だった。この疑問は、1棟目・2棟目を地銀で順調に組んだ投資家が3棟目・4棟目で壁にぶつかる際に、ほぼ共通して出てくる問いだ。

両者は「誰に貸すか」の設計思想が根本的に異なる

信託銀行と地銀を同じ「融資の窓口」として捉えると、話がずれる。両者はそもそも貸出業務のターゲット層が異なる。

地銀の不動産融資は、地域密着の中小事業者・個人への与信が主軸だ。審査では「この人が返済できるか」という属人的な信用力を軸に置く。給与収入、事業所得、既往の返済実績、そして地域内の評判。こうした定性情報が審査官の判断に大きく関与する。担保評価は路線価ベースが主流で、収益性よりも「売れるか」を優先する。物件のキャッシュフローではなく、借り手の属性で可否が決まる場面が多い。

一方、信託銀行が不動産融資に本格的に参入してきたのは2010年代以降、相続・資産管理需要を取り込む流れが加速してからだ。彼らが相手にするのは、純資産が相応にある富裕層、法人の資産管理会社、あるいは大規模な収益物件を保有するオーナーだ。審査の中心は物件の収益力、つまりNOI(純営業収益)とDSCR(債務返済カバー率)に置かれる。借り手の給与明細よりも、物件の賃貸借契約書と稼働実績のほうが重視される局面すらある。

同じ「不動産融資」でも、信託銀行が見ているのは「この物件が生み出すキャッシュフローで返済できるか」、地銀が見ているのは「この人が返済できるか」という問いの立て方の違いがある。この設計思想の差を理解していないと、なぜ断られたのか、なぜ通ったのかを正確に読めない。

融資審査の軸は、地銀=「借り手の属性」、信託銀行=「物件の収益力」。どちらが優れているかではなく、どちらの論理に自分の状況が合うかを見極めることが、資金調達戦略の出発点になる。

担保評価の算出方法が生む、融資額の大きな差

同じ物件を持ち込んでも、信託銀行と地銀では担保評価額が数千万円単位でずれることがある。原因は評価手法の違いだ。

地銀の多くは積算評価(原価法)を主体に使う。土地は路線価、建物は再調達原価から経年劣化を控除して計算する。この方式の特徴は、物件が実際にどれだけ稼いでいるかをほとんど反映しないことだ。築古で利回りが高くても、積算評価は低くなる。逆に新築で利回りが低くても、建物評価が高いうちは融資が引きやすい。地銀が「新築・築浅に強い」と言われる理由はここにある。

信託銀行は収益還元評価(DCF法またはキャップレート法)を重視する。物件が生み出すNOIをキャップレートで割り戻して価値を算定するため、稼働率と賃料水準が評価を左右する。築20年超でも満室稼働・安定収益であれば評価が高くなり得るし、新築でも空室リスクが高いエリアでは評価が下がる。

地銀(積算評価):築10年・RC造1棟マンション 8,500万円評価
信託銀行(収益還元):同物件 NOIベース 1億1,200万円評価
地銀(積算評価):築28年・木造アパート 2,100万円評価
信託銀行(収益還元):同物件 NOIベース 4,800万円評価

上記はあくまで概算イメージだが、築古高利回り物件ほど信託銀行の評価が相対的に高くなる傾向は実務でよく見る。ただし信託銀行はその分、鑑定評価書の提出を求める、賃貸借契約の内容を精査する、稼働実績の複数期分を確認するなど、書類要件が格段に重くなる。「評価が高い」と「融資が楽になる」は別の話だ。

金利・期間・諸条件の現実的な差

金利水準だけを比べれば、信託銀行のほうが低い場合が多い。2024年時点の実務感覚では、地銀の変動金利は1.5〜2.5%程度の幅があり、信託銀行は0.8〜1.8%程度の案件が出てくる。ただしこれは純粋な優劣ではなく、信託銀行は融資対象を絞っているから低金利で提供できるという構造だ。

融資期間については、地銀は建物の法定耐用年数に縛られるケースが多い。木造なら22年、RC造なら47年が上限の目安で、築年数が経っていると返済期間が短くなり、月次の返済負担が増す。信託銀行は物件の収益継続性を評価するため、耐用年数超えでも融資期間を柔軟に設定する場合がある。ただしこれは案件次第で、一律ではない。

1.5〜2.5%
地銀の変動金利帯(目安)
0.8〜1.8%
信託銀行の変動金利帯(目安)
法定耐用年数
地銀の融資期間の基準軸

もう一つ見落とされがちなのが、融資の付帯条件だ。信託銀行は融資実行の条件として、信託口座の開設、一定額の預金の維持、さらには資産管理会社の設立を求めることがある。法人化していない個人投資家が打診して断られるパターンの一つがこれだ。信託銀行の担当者が「法人でお越しください」と言う背景には、与信管理の問題だけでなく、信託業務全体で顧客と長期関係を築くというビジネスモデルがある。

地銀が向いている場面、信託銀行が向いている場面

横浜市内で1棟アパートを保有するA氏(50代・会社経営)は、2棟目の取得に際して信託銀行と地銀の双方に打診した。物件は横浜市鶴見区の築18年・木造2階建て・8戸・表面利回り9.2%・購入価格6,800万円だった。

地銀からは、積算評価が4,200万円に留まるため「融資可能額は3,500万円が上限」との回答が来た。自己資金を3,300万円用意すれば買えるが、資金効率が著しく低下する。一方、信託銀行は収益還元評価で6,100万円の評価を算出し、5,500万円の融資提示があった。ただし条件として、資産管理法人の設立と信託口座への月額50万円相当の保有が求められた。

A氏はその段階で法人を持っておらず、設立コストと事務負担を勘案してこの案件では地銀に戻り、別途1,200万円の担保不動産を追加提供することで4,800万円まで引き出した。「法人化はいずれやるが、今回の物件のためだけに動くタイミングではない」という判断だ。これは誤りではない。信託銀行の条件が合理的に見えても、自分の現在地に合っていないなら、地銀でつなぐほうが現実的な場面は多い。

「信託銀行の金利と評価額だけ見れば魅力的だった。ただ法人設立を急いでやると、税務・会計の整備が追いつかなくなる。2年後にもう一度打診するつもりで今は待った」

A氏・50代・会社経営

一方、大阪市淀川区で収益マンションを4棟保有するC氏(60代・医師・資産管理法人あり)は、5棟目の取得で信託銀行を正面から活用した。物件は大阪市西淀川区の築22年・RC造7階建て・24戸・購入価格2億4,000万円・表面利回り7.8%だった。法人3期分の決算書と全物件の賃貸借契約書・稼働実績を揃えた上で打診し、金利1.1%・35年・2億円の融資が承認された。地銀では「既存借入残高が多い」として消極的な回答だったが、信託銀行は既存物件のNOIと今回取得物件の収益力を合算して判断した。法人化と財務整備が、信託銀行の論理に完全に乗った事例だ。

地銀が力を発揮するのは、初期から中期の資産形成段階、地方・郊外の物件、個人属性(給与・事業収入)が明確に高い借り手、積算評価の出やすい構造物件の場合だ。信託銀行が力を発揮するのは、法人化・財務整備が完了した後、都市部の収益性の高い物件、既存借入が積み上がって属人評価では動かなくなった段階、物件規模が大きくなりキャッシュフロー重視の評価が有利に働く場合だ。

既存借入残高と「デット容量」の管理という視点

中級投資家がぶつかりやすい壁の一つが、地銀の「デット容量の上限」だ。地銀は借り手の年収に対する借入総額の倍率を気にする。年収1,000万円の個人に対して、5,000万円・6,000万円・7,000万円と積み上がっていくと、7倍・8倍の水準で「これ以上は」という反応が出てくる。この段階で信託銀行に切り替える投資家は多いが、信託銀行は個人年収との比率ではなく、ポートフォリオ全体のNOIとDSCRで判断するため、属人的な「年収の壁」が消える。

ただし信託銀行もポートフォリオの空室リスクを厳しく見る。稼働率が低い物件が複数あると、NOI合算がぐらつくため評価が下がる。地銀で組んできた物件群の稼働実績が信託銀行の審査資料になるという意識を持つことが、将来の借り換え・追加融資の準備につながる。

実際の動き方として、地銀で2〜3棟取得しながら法人の決算書を2〜3期積み上げ、稼働実績データを整備し、信託銀行への打診に備えるという流れが、規模拡大の現実的な経路だ。逆に最初から信託銀行を狙って条件が整わないまま時間を使うのは機会損失になる。

「借り換え」で信託銀行を使うという選択肢

新規取得だけでなく、地銀で組んだ既存物件を信託銀行に借り換えることで、金利差と融資額の差を回避資金に変えるという戦略がある。特に地銀で積算評価ベースの低評価で組んだRC造物件は、収益還元評価が高く出やすいため、借り換えで余剰資金を引き出せる場合がある。

ただし借り換えには繰上返済違約金(固定金利の場合は特に)、法人設立・変更コスト、信託銀行への切り替えに伴う預金維持条件などのコストが発生する。金利差1%であっても、残債2億円なら年200万円の削減効果があるため、試算するだけの価値はある。実務では、信託銀行の担当者に「既存物件の借り換え打診」として持ち込むと、新規取得より話が進みやすいケースがある。担保が見えている案件は、銀行側も動きやすい。

関係構築の時間軸──信託銀行との付き合い方の現実

地銀は支店長や担当者との個人的な関係が融資に影響することがある。年賀状を出す、決算書を持参して定期的に面談する、地域の経済動向を話題にするといった、昭和的と言われる関係性が今でも機能している局面がある。これを「古い」と切り捨てると、地銀をうまく使えなくなる。

信託銀行はもう少し組織的な審査体制をとっているため、担当者の裁量幅は小さい。「案件の数字が通れば融資が出る」という側面が強く、逆に言えば数字が通らなければ人間関係で補うことは難しい。信託銀行の担当者を接待して審査が通るという話は、少なくとも現在の主要信託銀行では機能しない。

信託銀行との関係で実効的なのは、①財務データを整然と提供できる体制を整えること、②資産管理法人の決算を公認会計士・税理士が監査・関与しているレベルに整備すること、③定期的な資産状況の報告(ポートフォリオの稼働実績レポート)を先方に送り続けることだ。「次の案件があります」と打診したとき、過去のデータが揃っている顧客への反応は明らかに速い。

地銀でも信託銀行でも、「初めて会った日に融資が出る」という関係は稀だ。時間をかけて情報を蓄積させ、「この人の案件なら読める」という状態を先方の中につくることが、融資の速度と条件の両方に効いてくる。

自分のポートフォリオが今どの段階にあるか──個人属性で押せる段階なのか、収益力で押す段階に来ているのか。それを正確に把握できている投資家が、銀行の論理を使いこなせる。その判断を誤ると、条件の合わない銀行に何度も打診して時間を失う。あなたのポートフォリオは、今どちらの論理が有利に働く状態にあるだろうか。

株式会社ウェルスターエージェンシー監修株式会社ウェルスターエージェンシー投資用1棟収益物件に特化した不動産仲介・コンサルティング会社。CF・IRR・DSCRを重視した数値ベースの投資判断と、融資戦略・出口戦略まで一貫して支援。東京都中央区に拠点を置き、首都圏・名古屋・関西圏の投資家へのアドバイザリー実績多数。宅地建物取引業免許 / 東京都知事(4)第92706号公式サイト wellstar-agency.com →

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