WELLSTAR AGENCY COLUMN
先日、埼玉県川口市で3棟計42室を保有するオーナーから連絡が来た。「2ヶ月滞納している入居者に対して、管理会社が毎月電話しているだけで何も進んでいない。このまま半年待てばいいのか」という内容だった。管理会社に任せきりで、法的手続きの入口すら見えていない状態だった。
滞納が「2ヶ月」を超えた時点で動き方が変わる
1ヶ月の滞納と2ヶ月の滞納では、法的な意味合いがまるで異なる。家賃を1ヶ月払わなかっただけで即座に契約を解除することは、判例上ほぼ認められない。裁判所が「信頼関係の破壊」と判断するには、原則として2〜3ヶ月以上の継続的な不払いが必要とされている。
つまり、2ヶ月を超えた時点で、オーナーは「督促」から「法的対応の準備」へとギアを切り替える根拠が生まれる。ここを曖昧にしたまま「もう少し待とう」と判断するたびに、回収不能額が積み上がっていく。
実際の回収困難額の分布を見ると、3ヶ月以上の滞納になってから動き出したケースでは、回収できた金額が大幅に減少する傾向がある。
これは複数の弁護士・司法書士からヒアリングした実務感覚に基づく目安値だが、現場感覚とも概ね一致する。遅れれば遅れるほど、相手の財産状況は悪化し、連絡も途絶えやすくなる。
内容証明郵便の役割と、送り方の現実
電話や口頭での督促は、法的な証拠として機能しない。内容証明郵便を送ることの意味は、「このオーナーは記録を残して動いている」という事実を相手に伝えることにある。同時に、訴訟や調停に進んだ際の証拠書類としても機能する。
内容証明は、郵便局の窓口またはインターネット内容証明(e内容証明)で送れる。費用は1,200〜1,500円程度。自分で文書を作成することも不可能ではないが、弁護士または司法書士に依頼すると文書の精度が上がり、相手へのプレッシャーも異なる。依頼費用は1〜3万円が相場だ。
内容証明に記載する内容は、①滞納額と期間、②支払い期限(通常2週間程度)、③期限内に支払いがない場合は賃貸借契約を解除する旨、の三点が軸になる。「催告書」として機能させることで、後の解除通知の前提条件を整える。
なお、内容証明を送ること自体が即「解除」を意味するわけではない。あくまでも催告であり、指定期限内に支払いがなかった場合に初めて「解除通知」を別途送る流れになる。この二段階を混同しているオーナーは意外に多い。
保証会社・連帯保証人への請求を並行して動かす
2020年4月の民法改正以降、新規契約のほとんどは連帯保証人なしで保証会社を使う形態になった。保証会社への請求は、通常1〜2ヶ月の滞納で自動的に代位弁済が行われる契約になっていることが多い。しかし、保証会社の補償範囲外の費用(原状回復費用の一部、明渡し訴訟費用など)はオーナー負担になるケースもある。契約書の「免責事項」欄を確認しておく必要がある。
一方、旧来の連帯保証人が付いている契約では、保証人への直接請求も選択肢に入る。連帯保証人には「催告の抗弁権」も「検索の抗弁権」もなく、主債務者(入居者)と同等の責任を負う。ただし、保証人が高齢で資産を持たない場合や、すでに債務整理中の場合は実質的に機能しない。
横浜市内で築22年・8室の1棟アパートを保有するA氏(50代・会社経営)の事例が参考になる。管理会社経由で保証会社に加入させていたため、3ヶ月分の家賃(月額7万2千円×3=21万6千円)は保証会社から代位弁済された。しかし入居者が夜逃げ同然で退去した後、残置物の処分費用と原状回復費用として合計38万円が発生した。この部分は保証会社の免責範囲で、A氏が全額負担した。「保証会社が入っていれば全部安心」という思い込みが、想定外の出費につながった形だ。
「保証会社が代位弁済してくれたので安心していたら、退去後の費用が完全にノーカバーで、結局30万円以上が自腹になった」
A氏・50代・横浜市在住
訴訟・調停・支払督促──どの手続きを選ぶか
催告期限を過ぎても支払いがなく、任意の退去も見込めない場合、法的手続きに移行する。手続きには複数の選択肢があり、状況によって使い分ける。
| 手続き | 特徴 | 費用目安 | 期間目安 | 向いているケース |
|---|---|---|---|---|
| 支払督促 | 相手が異議申立てしなければ確定 | 数千〜1万円程度(印紙代) | 2〜3ヶ月 | 相手が行方不明でなく、争いが少ない場合 |
| 少額訴訟 | 1日で判決、60万円以下の金銭請求 | 1〜2万円程度(印紙代) | 1〜2ヶ月 | 滞納額が少額で、相手が出頭する見込みがある場合 |
| 通常訴訟(明渡請求) | 建物明渡+未払賃料請求を同時に行える | 弁護士費用込みで30〜60万円 | 3〜8ヶ月 | 入居者が占有を継続している場合 |
| 調停 | 話し合いで解決、任意性が高い | 1〜2万円程度(印紙代) | 2〜4ヶ月 | 相手が話し合いに応じる意向がある場合 |
入居者がまだ部屋を占有している場合、最終的な目標は「建物の明渡し」と「未払賃料の回収」の両方になる。この場合、通常訴訟で「建物明渡請求+未払賃料請求」を一本化して提起するのが効率的だ。訴状の作成から判決まで平均4〜6ヶ月、複雑な案件では8ヶ月以上かかることもある。
弁護士費用の相場は、着手金15〜25万円+成功報酬(回収額の15〜20%)が一般的だが、明渡し専門で固定料金を設定している事務所も増えている。複数の物件を保有するオーナーであれば、不動産案件に強い弁護士と顧問契約を結んでいる方が長期的にコスト効率がよい。
判決後から強制執行まで──見落とされがちな最終工程
判決が出て「勝訴」しても、それだけでは何も解決しない。入居者が自発的に退去しない場合、強制執行の申立てが必要になる。
強制執行(建物明渡しの断行)の手続きは、判決確定後に地方裁判所に申立てを行い、執行官が現地に赴いて明渡しを実施する形になる。申立てから実施まで、通常1〜2ヶ月かかる。執行官の費用に加え、残置物の搬出・保管・廃棄費用が発生し、合計で20〜50万円の出費が見込まれる。
大阪市淀川区で築31年・12室の1棟マンションを保有するB氏(40代・会社員・共働き夫婦)のケースでは、入居者の3ヶ月滞納に対して管理会社経由で督促を続けたが解決せず、弁護士に依頼してから判決確定まで約7ヶ月、強制執行の実施まで合計10ヶ月を要した。この間の家賃損失は月6万5千円×10ヶ月=65万円、弁護士費用・執行費用・残置物処理費用を合わせた総費用は約89万円に達した。保証会社への加入がなかったため、全額がオーナーの損失になった。「最初の2ヶ月で動いていれば、費用の半分以下で済んだ」と振り返っている。
「管理会社に任せきりにして6ヶ月様子を見ていたことが、最大の失敗だった。内容証明を出すタイミングを自分で判断できていれば、損失は全然違っていたと思う」
B氏・40代・大阪市淀川区在住
「任意退去」を引き出す交渉術と立退料の現実
訴訟・強制執行はオーナーにとっても費用と時間がかかる。相手が話し合いに応じる余地があれば、「立退料」という手段で任意退去を促すことも現実的な選択肢になる。
滞納案件における立退料は、正当事由による立退きとは異なり、あくまでも「引っ越し費用の一部負担」として合意形成するイメージだ。相場は家賃の1〜3ヶ月分程度。滞納者が資産を持たない場合、「滞納賃料を一部免除する代わりに○月○日までに退去する」という形の合意書(即決和解)を裁判所で作成することで、不履行時の強制執行権を確保しながら任意退去を促せる。
即決和解(訴え提起前の和解)は、弁護士なしでも申立て可能で、手数料は2千円程度と安い。合意書に強制執行認諾文言を入れることで、後の執行手続きを省略できる。この手法を知っているかどうかで、解決までの時間が数ヶ月単位で変わる。
全体スケジュールを逆算して管理する
滞納対応を時系列で整理すると、概ね以下のような流れになる。日付管理を管理会社任せにせず、オーナー自身が把握しておく必要がある。
滞納発生(0ヶ月目)から電話・書面での初期督促を行い、2ヶ月目に入った時点で内容証明を発送する。催告期限(通常2週間〜1ヶ月)を設定し、期限到来後に支払いがなければ契約解除通知を送る。解除通知後も退去しない場合、弁護士に依頼して訴状を準備し、3〜4ヶ月目には提訴する。判決確定が6〜10ヶ月目、強制執行が8〜14ヶ月目という流れが一般的な目安だ。
この全体像を把握していれば、「今どの段階で、次は何をすべきか」が明確になる。管理会社からの報告が「今月も督促しました」だけで終わっているなら、それは管理不全のサインだ。どの段階の督促を、どういう方法で行ったのかを月次で確認する習慣を持つべきだ。
保証会社との関係で言えば、保証会社は代位弁済後に入居者へ求償権を行使する立場になる。つまり、保証会社が動いた後もオーナーが当事者として無関係になれるわけではなく、解約合意書や退去立会い、原状回復の協議はオーナーが主導しなければならない場面が多い。保証会社の担当者とのコミュニケーションを管理会社任せにしていると、情報が途切れたまま退去が完了し、修繕費用の請求先が曖昧になるという事態が起きる。
複数棟を保有していれば、いつかは滞納案件に直面する。問題は、その時に「どこから手を付ければよいか」が即座に判断できるかどうかだ。弁護士の選定、保証会社との連絡系統、管理会社への指示——これらを平時に整理しておくだけで、発生時の対応速度がまったく変わる。
あなたの物件で今、2ヶ月を超えた滞納者が1人でもいるなら、今週中に弁護士へ相談の連絡を入れることをすすめる。「もう少し様子を見よう」という判断を下すたびに、回収できる金額は静かに減っていく。
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配信: 株式会社ウェルスターエージェンシー




