AIリーシングを活用した空室対策──実務で見える景色

WELLSTAR AGENCY COLUMN

先日、埼玉県川口市で3棟・計48室を保有するオーナーから連絡が来た。「AIリーシングツールを導入したのに3か月で空室が2室しか埋まらない。何が悪いのか」という内容だった。話を聞くと、管理会社に勧められるままシステムを契約し、あとは「お任せ」にしていた。AIが動いているはずなのに、現場は何も変わっていない──この状況は、いま全国で同時多発的に起きている。

AIリーシングが実際に何をしているか

「AIリーシング」という言葉は、広告最適化、問い合わせ対応の自動化、家賃提案の動的更新など、複数の機能を一括りにした便利な呼称として使われている。導入前にこの中身を把握していない投資家が多い。

大別すると3つの層に分かれる。第一層は「掲載最適化」で、SUUMOやHOME’Sといったポータル上の掲載順位を上げるための写真・文言・更新タイミングの自動調整だ。第二層は「反響対応の自動化」で、問い合わせへのチャット返答や内見予約の自動受付。第三層は「家賃・条件の動的提案」で、エリアの成約事例や競合物件の動きをリアルタイムで拾い、家賃の増減や初期費用の免除タイミングを提案する。

冒頭の川口市のオーナーが契約していたのは第一層だけだった。写真と文言が自動で整理されても、そもそも築28年・専有面積22㎡の1Kが6万8千円という家賃設定が周辺相場より8%高ければ、どれだけ掲載が最適化されても反響は来ない。AIツールは「条件の歪み」を直す機能は持っていない。歪みを検出して人間に突きつけることはできるが、判断して動くのはオーナーの側だ。

AIリーシングが有効に機能する前提条件は、家賃・設備・立地という物件の基礎スペックが市場と整合していることだ。ここがずれている状態でシステムを入れると、「空室が可視化されるだけで埋まらない」という最悪のパターンになる。

データが明かす「反響が来ない物件」の共通項

複数の管理会社が公表しているリーシングデータや、私が関わった案件の傾向を重ねると、空室長期化の物件には繰り返し同じ特徴が現れる。

家賃が相場より5%以上高い 68%
写真がスマホ撮影・暗い・広角なし 54%
礼金1か月以上の設定 47%
築25年超かつ設備未更新 41%
掲載情報の更新が週1回未満 39%

上位に来るのはいずれもAIが指摘できても「オーナーが承認しないと動かない」要素だ。家賃を下げる判断、礼金をゼロにする決断、設備投資を承認するかどうか──これらはシステムの管轄外にある。AIリーシングが最も威力を発揮するのは、こうした基礎条件が整った上で「どのタイミングで・どの属性の入居者に・どう見せるか」を自動で最適化するフェーズだ。

40代会社員オーナーが6か月空室を45日で埋めた理由

横浜市磯子区で築19年・8室の木造アパートを保有するT氏(42歳・メーカー勤務・妻と子2人)は、2023年の秋から2LDKの1室が空室になり、翌年3月まで6か月間埋まらない状態が続いていた。物件スペックは専有面積56㎡、購入時の利回りは表面7.2%(取得価格8,400万円)。管理は地元の中小管理会社に委託していたが、ポータルへの掲載更新は月に2〜3回程度だった。

T氏がAIリーシングツールを導入したのは管理会社経由ではなく、自分で契約した第三層に近いSaaS型のサービスだった。ツールが最初に出力したのは、周辺2km圏内の直近90日の成約事例から算出した「実勢家賃11万2千円に対して現行12万円は6.7%の乖離がある」という数値と、「初月フリーレント1か月を設定した場合の成約確率スコアが現状の34から61に改善する」という予測だった。

T氏がとった行動はシンプルで、家賃を11万5千円に下げ、フリーレント1か月を付け、写真を広角レンズで撮り直し、ペット相談可の文言を追加した。ツールは掲載タイミングを金曜夜・月曜朝に集中させ、競合が更新した直後に追随更新する設定を自動で組んだ。結果として申し込みは改善から45日目に入り、3月末に入居が決まった。

「ツールが何かを魔法のようにやったわけじゃなくて、自分が判断を先送りにしていた家賃と礼金の問題を、数字で突きつけてくれた感じです。それだけだったけど、それが全部だった」

T氏・42歳・横浜市磯子区オーナー

この事例で見えるのは、AIが「判断材料の質を上げた」という役割だ。T氏自身が「家賃が高いかもしれない」という感覚は持っていた。ただ確信が持てず、管理会社とも意見が噛み合わないまま時間が過ぎていた。ツールが出した数値は管理会社との交渉材料にもなり、「下げましょう」という合意を引き出す触媒として機能した。

動的家賃設定の実務──「値下げ」とは違う

動的家賃設定(ダイナミックプライシング)という言葉を聞くと、空室が出るたびに家賃を下げ続けるイメージを持つオーナーが多い。実態は違う。

AIが行うのは競合物件の入退去サイクル、エリアの求人動向、転勤シーズンの需要変動、新築供給の状況を掛け合わせた「今この物件に払える層がどれだけいるか」の推計だ。繁忙期(1〜3月)に向かう11月以降は需要が上がるため、むしろ家賃を据え置くかわずかに上げる提案が出ることもある。閑散期の9〜10月に空室が出た場合に初期費用を緩和する、という方向性で設定が変わる。

「下げ幅」より「タイミング」のほうが成約に効く

私が見た事例の中で印象に残るのは、家賃を3,000円下げるより、礼金をゼロにして敷金を1か月に下げたほうが申し込みが増えたケースが多いという事実だ。入居者の心理として、「初期費用の高さ」は内見前に検索条件から弾く要因になる。家賃は毎月の支出だが、初期費用は「今すぐ払う現金」であり感度が高い。AIリーシングが初期費用の変更を先に提案してくるシステムが増えているのは、こうした行動データの蓄積が背景にある。

約23日
AIツール導入後の平均成約日数(非導入比較)
1.8倍
金曜夜〜月曜朝の掲載更新による反響増加率
6.4%
動的家賃設定で生じる平均的な家賃調整幅

管理会社との関係が変わる──「お任せ」が機能しなくなる理由

AIリーシングを導入した投資家から共通して聞くのは、「管理会社との会話の質が変わった」という感想だ。以前は「現在の空室状況はどうですか」という確認電話が精一杯だったのが、「競合の○○マンションがフリーレント2か月を始めた、どう対処しますか」という具体的な議題で話せるようになる。

ただし、この変化が摩擦を生むケースもある。管理会社の担当者がツールを快く思わない場合だ。特に長年の慣習で動いている中小管理会社では、オーナーがデータを持ち込むことを「信頼されていない」と受け取る担当者もいる。AIリーシングの導入は、管理会社との関係性を一段アップデートする機会だが、同時に管理会社の実力が数字で透けて見えるという側面もある。

大阪市淀川区で築11年・24室のRC造マンションを保有するK社(法人オーナー・代表50代・従業員数名の建設会社)は、2022年に自社でAIリーシングツールを契約し、管理委託先の会社にデータ共有を求めた。当初は管理会社側の対応が鈍く、「ツールの提案通りに動いてほしい」という要求が通らない場面があった。しかし、ツールが出した家賃調整提案を無視した3か月間で空室が4室になり、提案に従った翌2か月で2室が成約するという結果が数字で記録された。その後は管理会社側もデータを受け入れる姿勢になり、現在は担当者が月次でツールのダッシュボードを参照する体制が作られた。購入時の利回りは表面6.8%(取得価格2億2千万円)だったが、現在は満室時想定に対して98%の稼働率を維持している。

「最初は管理会社に嫌われると思って遠慮していたんですが、数字が出てからは逆に向こうが使いたがるようになった。ツールより、使い続ける根気のほうが大事でした」

K社代表・50代・大阪市淀川区オーナー

AIと人間の役割分担──どこまでを委ねるか

AIリーシングは今後、家賃提案だけでなく「どの入居者属性を優先すべきか」という方向にも踏み込んできている。単身高齢者の入居受け入れ可否、外国籍入居者への対応方針、ペット飼育の条件設定など、成約確率を上げるための属性開放提案が自動で出てくるシステムも登場している。

ここは純粋にオーナーの価値観と経営判断が必要な領域だ。高齢単身者を受け入れた場合の孤独死リスクと家賃保証サービスの組み合わせを検討するのか、外国籍入居者を受け入れる場合の保証会社選定をどうするのか──AIは選択肢とスコアを出すが、判断の責任はオーナーが負う。この境界を曖昧にしたまま「AIに任せた」という態度でいると、後で想定外の問題が起きたときに対処できなくなる。

ツール選びで見るべき3つの観点

市場に出回っているAIリーシングツールの機能差は大きい。選定時に確認すべきは、まず「どのポータルと連携しているか」だ。SUUMO・HOME’S・athomeの3媒体に対して同時掲載・更新できるかどうかは基本要件で、1媒体のみとの連携では意味が薄い。次に「家賃提案のロジックが説明できるか」という点。ブラックボックスの提案より、「エリアの直近90日の成約事例○件から算出」という形で根拠を開示できるシステムのほうが、管理会社や金融機関への説明にも使える。最後に「オーナー側でどこまで設定変更できるか」。管理会社だけがダッシュボードにアクセスできる構造だと、オーナーがデータを見るのにワンクッションかかり、意思決定が遅れる。

確認項目 最低限必要な水準 できれば欲しい水準
ポータル連携 SUUMO・HOME’S・athome 3媒体対応 掲載タイミングの自動最適化あり
家賃提案の根拠 成約事例数・期間の明示 競合物件の個別データ参照可
ダッシュボード権限 オーナー自身がアクセス可 管理会社と権限レベルを分けて設定可
初期費用の提案機能 礼金・敷金変更の提案あり フリーレント期間の自動算出あり
入居者属性の開放提案 選択肢の提示のみ リスクスコアとセットで提案

空室対策の本質はツールの外にある

AIリーシングを使いこなしている投資家とそうでない投資家の差は、ツールの習熟度より「自分の物件の現状を数字で語れるか」という部分に集約される。競合物件の家賃帯、エリアの直近成約事例、自物件の平均空室期間と成約にかかった費用──これらを即答できる投資家は、AIツールの提案を判断できる。即答できない投資家は、AIが出した提案が「合っているのかずれているのか」を評価する基準を持っていないため、結局承認判断が遅れる。

ツールは「考える速度」と「見る範囲」を拡張するが、考える主体はオーナー自身だ。空室を埋める意思決定の速度と精度は、データへのアクセスが増えれば自然に上がる。ただし、その恩恵を受けるのはデータを読もうとするオーナーだけだ。

あなたの物件の空室期間は今、何日になっているか。その数字をすぐに言えるかどうかが、AIリーシングを道具として使いこなせるかどうかの、ほぼ全てを決めていると私は感じている。

株式会社ウェルスターエージェンシー監修株式会社ウェルスターエージェンシー投資用1棟収益物件に特化した不動産仲介・コンサルティング会社。CF・IRR・DSCRを重視した数値ベースの投資判断と、融資戦略・出口戦略まで一貫して支援。東京都中央区に拠点を置き、首都圏・名古屋・関西圏の投資家へのアドバイザリー実績多数。宅地建物取引業免許 / 東京都知事(4)第92706号公式サイト wellstar-agency.com →

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配信: 株式会社ウェルスターエージェンシー

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