仲介会社を動かす媒介契約の心理学──実務で見える景色

WELLSTAR AGENCY COLUMN

売却査定の場で、ある投資家から「専任と一般、どっちが得ですか?」と聞かれるたびに、少し違うことを考えてしまう。答えはどちらでもなく、「あなたの物件と状況次第」でしかないのだが、そもそもその選択の前に、仲介会社が内部でどう動いているかを知らなければ、契約形態など議論しても意味がない。

仲介会社が「優先的に動く」物件は決まっている

仲介会社の営業担当者は、複数の売却案件を同時に抱えている。1人あたり10〜30件を並走させることも珍しくない。その中でどの案件に時間を使うかは、感情と合理性の両方で決まる。

合理的な理由は単純だ。成約したときの報酬が高い案件、かつ成約可能性が高い案件を優先する。だから価格が相場より高めに設定されていて成約の見込みが薄い物件は、形式上は受託していても、実質的に後回しになる。査定を高く出してくれた会社に飛びつくと、後でこの罠にはまる。

感情的な理由も同じくらい影響する。売主とのやり取りが気持ちよい案件、問い合わせへの反応が早い売主、値引き交渉の際に無駄に揉めない売主──担当者はそういう人の案件を「後回しにしたくない」と感じる。これは人情としては当たり前で、組織の建前では語られないが、現場では確実に存在する。

媒介契約の形態はその後の話だ。仲介会社が本気を出す条件が整っているかどうかが先にある。

専任・専属専任・一般、それぞれが持つ「構造的な緊張感」

専任媒介は売主が1社にしか依頼できないが、売主自身が直接買主を見つけることはできる。専属専任はそれすら禁じる。一般媒介は複数社に依頼可能で、自己発見取引も自由だ。

この三つを「どれが有利か」で語るのは半分しか正しくない。本質は「仲介会社にとっての競争リスクがどこにあるか」という視点で見るべきだ。

専属専任:仲介会社のモチベーション水準 85%
専任:仲介会社のモチベーション水準 70%
一般(大手・競合多数):各社のモチベーション水準 35%
一般(地元密着・1〜2社):各社のモチベーション水準 60%

専属専任は「他社に取られる心配がない」から安定して動く、というのは半分正しい。もう半分の真実は、「売主が他に逃げられない」から危機感が下がる会社もある、ということだ。実際に現場では、専属専任で受託した後に連絡頻度が落ちるケースが一定数ある。担当者個人というより、会社の管理体制の問題が出やすい形態でもある。

一般媒介で複数社に依頼すると「競争させられる」と思いがちだが、投資用の一棟物件では話が違う。居住用の分譲マンションと異なり、収益物件はレインズへの登録義務が専任・専属専任にしかない。一般媒介で複数社に出した場合、各社が「囲い込み」をする動機が生まれる。他社に情報を回さず、自社の買主候補だけに当てようとする。これが結果として市場露出を狭める。

囲い込みが起きやすい物件の条件

囲い込みは「両手仲介を狙える物件」で発生する。買主側からも仲介手数料を受け取れる取引だ。収益物件は売買価格が高く、手数料額が大きい。2億円の物件なら、売主・買主双方から受け取れる手数料の合計は上限672万円になる。これだけの報酬機会があれば、他社に情報を流す合理的な理由がないと考える会社が出てくる。

一般媒介で依頼した複数社のうち、実際に他社への情報提供(いわゆる客付けへの協力)をしているかどうかは、別の業者にその物件の情報があるかを確認するだけでわかる。試したことがない人はやってみると、驚く結果が出ることがある。

査定価格を「吊り上げてくる会社」と付き合う方法

投資家にとって、査定価格が高い=いい会社ではない。これは頭ではわかっていても、感情的には高値を提示した会社に惹かれる。仲介会社の営業担当者はそれをよく知っている。

査定価格の高い会社を見極めるには、その根拠を聞くのが早い。「なぜこの価格で売れると思うのか」への答えに、具体的な類似取引事例(成約事例、成約時期、物件属性の類似度)が出てくるかどうかを確認する。「この価格なら買主が見つかりそうです」という定性的な答えしか返ってこない場合、その数字には根拠がない。

査定価格は「会社の希望」ではなく「市場の現実」を反映しているかどうかを問え。担当者が事例を持ってこられなければ、その数字は信頼できない。

高い価格で市場に出して売れない時間が続くと、段階的な値下げが始まる。収益物件では長期間の売り出しがネガティブシグナルとして受け取られ、「なぜ売れないのか」という疑念を買主に植え付ける。結果として、適正価格から始めた場合より低い価格で決着することも多い。

担当者を動かす「売主の振る舞い」

埼玉県川口市でRC造1棟マンション(1990年築・16戸・2.1億円・利回り7.8%)を売却したDさん(40代・IT系会社員・共働き・子2人)のケースを見てみる。Dさんは専任媒介で地場の中堅仲介会社に依頼したが、最初の2ヶ月間、問い合わせがほぼゼロという状況に陥った。

担当者に状況を聞くと「なかなか反応が薄くて」という曖昧な返答。私がDさんに提案したのは、担当者との関係の作り直しだった。週1回の定期報告を依頼し、担当者から連絡が来たときには24時間以内に返信する。価格の小幅調整を担当者が提案してきたときは、頭ごなしに否定せず「その根拠を教えてほしい」と聞き、納得できる説明があれば2週間以内に決断する、という形を徹底した。

3ヶ月目に担当者が「投資家向けのセミナーで紹介したい」と言ってきた。担当者が自社のイベントで紹介したくなる物件は、自分が自信を持って推せる案件だ。そこから買主候補が3組現れ、最終的に2.08億円で成約した。当初の査定価格2.15億円からは下がったが、売り出しから4ヶ月での決着は、あの状況では上出来だったとDさん本人も認めている。

「担当者が動いてくれないと文句を言っていた最初の2ヶ月、自分の対応が遅かったのが原因だったと後から気づきました。査定の翌日に返事を出すだけで、担当者の雰囲気が変わった」

Dさん・40代・IT系会社員

仲介会社は機関ではなく人の集まりだ。同じ専任媒介でも、売主の振る舞いによって担当者の優先順位が変わる。これは感情論ではなく、仲介業という仕事の構造上の現実だ。

媒介契約の「切り替えタイミング」を見誤ると何が起きるか

専任媒介の契約期間は最長3ヶ月。更新するかどうかを考えるとき、「3ヶ月の動きをどう評価するか」の基準を持っていない投資家が多い。

評価項目 3ヶ月で確認すべき内容 問題ありと判断する目安
問い合わせ件数 月間の実数(見込みを含む) 月0〜1件が2ヶ月続く
レインズ登録状況 登録証明書の提示 登録後に「公開中」になっていない
活動報告の頻度 専任は2週間に1回の義務あり 1ヶ月以上連絡がない
価格根拠の更新 市場変化に応じた再査定の提案 3ヶ月間同じ価格・理由の繰り返し
内見対応の質 内見後のフィードバック内容 「感触を見ている段階」等の抽象的な報告のみ

契約を切り替えるかどうかより先に、「この担当者・会社は動いているか」という事実確認が必要だ。レインズへの登録確認は自分でも調べられる。「こちらがログインして確認できるURLを教えてほしい」と聞けばいい。出し渋る会社は疑ってよい。

切り替え後の「時間のロス」を計算に入れる

会社を切り替えると、新しい担当者が物件を理解するまでの時間が発生する。収益物件では、収支シミュレーション・修繕履歴・賃貸借契約の内容・管理会社との関係など、伝えるべき情報量が多い。この「引き継ぎ期間」に2〜4週間かかることを見込んでおかないと、切り替えたのに動き出しが遅れる。

切り替えを決めたら、前の会社の契約終了を待って新しい会社に声をかけるのではなく、終了の2〜3週間前から情報整理を始め、終了翌日に新しい担当者へ物件資料一式を渡せる状態にしておく。この準備の有無で、実質的な売却活動の再開が1ヶ月近く変わることがある。

「両手か片手か」を意識した会社の選び方

大阪市淀川区で築32年の木造2棟(合計18戸、取得総額1.3億円、表面利回り9.2%)を保有するE氏(60代・元会社員・妻と二人暮らし)は、退職を機に資産整理として1棟を売却しようとした。複数の仲介会社に声をかけたところ、2社が「一般媒介で任せてほしい」と言い、1社が「専任でやらせてほしい」と主張した。

E氏は最初、競争させた方がいいと考えて一般媒介で2社に依頼した。3ヶ月間、両社から報告が月1回あるかないかで、内見はゼロだった。私が状況を聞いたとき、「どちらの会社も、うちに買主がいなければ他に回すつもりがないように見えた」と言っていた。実際、後から確認するとレインズへの登録はされていたが、他社からの問い合わせを受け付ける設定になっていなかった。

その後、専任を希望していた1社に切り替えると、翌月に2件の内見が入り、売り出しから1ヶ月半で7,400万円の指値(売り出し価格7,600万円)を提示した買主が現れた。E氏は200万円の値引きを受け入れ、成約した。一般媒介で無為に過ごした3ヶ月が、金利・管理費・時間コストとしてどれほどの損失だったかは、後で計算して顔色が変わったと本人が話していた。

3ヶ月
一般媒介での内見ゼロ期間
7,400万円
専任切替後の成約価格
約45日
専任切替から成約までの期間

両手仲介を狙う会社が悪いわけではない。問題は「両手狙いのために情報を囲い込む」行動だ。これを見抜くには、「他社からの問い合わせが来た場合、どう対応しますか?」と直接聞くことが一番早い。「もちろん紹介します」と即答できる担当者と、言葉を濁す担当者では、その後の動きが変わる。

媒介契約の前に整えておくべき情報の「質」

仲介会社が買主候補に物件を提案するとき、手元にある情報の質が提案の質を決める。売主がレントロール(賃借人ごとの賃料・契約期間・敷金一覧)、過去5年分の修繕履歴、建物検査報告書、管理会社との契約内容をまとめて渡していると、担当者の提案資料のクオリティが上がる。

買主が収益物件を検討するとき、最終的には数字と物件の透明性で判断する。「修繕履歴がない」「管理状況が不明」「賃料の根拠が曖昧」という物件は、同じ価格帯の競合物件と比べて不利だ。仲介会社がどれだけ優秀でも、元の情報が薄ければ、買主への説得材料が乏しくなる。

売却を考え始めた時点で、まずこの情報整理をする。媒介契約を結ぶのはその後だ。情報を整えてから来た売主と、何も持たずに来た売主では、担当者の初動の熱量が変わる。これは気持ちの問題ではなく、仕事の段取りとして当然の反応だ。

担当者が最初の面談で「修繕履歴はありますか?」「満室稼働の根拠を教えていただけますか?」と確認してくるかどうかも、会社を見極める一つの目安になる。表面的な価格だけに飛びつく担当者は、買主の厳しい質問にも同じ水準でしか答えられない。

仲介会社との関係は「依頼」ではなく「協働」として設計する

媒介契約を結んだ時点で、多くの売主は「あとは仲介会社に任せた」という受動的なモードに入る。これが最初の誤りだ。

仲介会社の担当者は、売主が関心を持ち続けていると感じた物件を放置しない。毎週の状況確認を自分から聞きに行く。内見後のフィードバックを詳細に求める。価格調整の判断を素早く行う。この三つを徹底するだけで、担当者の中での優先順位が変わる。

同時に、担当者が「動きやすい売主」であることも必要だ。内見の立ち合いを拒否しない、入居者への通知を早めに対応する、ローンの残債情報や登記情報を事前に用意している──こうした準備が、担当者にとっての「やりやすさ」を作る。仲介は人を介したビジネスだから、やりやすい案件には自然に時間が割かれる。

媒介契約の形態を議論する前に、「この売主と仕事をしたい」と担当者に思わせる関係が先にある。その土台ができてから、専任か一般か、価格設定はどうするか、という議論が初めて意味を持つ。

あなたの次の売却で、担当者が「この案件を絶対に決めたい」と思っているかどうか──今持っている物件の担当者の顔を思い浮かべたとき、その確信が持てるなら、今の関係は機能している。持てないなら、変えるべきは契約形態ではないかもしれない。

株式会社ウェルスターエージェンシー監修株式会社ウェルスターエージェンシー投資用1棟収益物件に特化した不動産仲介・コンサルティング会社。CF・IRR・DSCRを重視した数値ベースの投資判断と、融資戦略・出口戦略まで一貫して支援。東京都中央区に拠点を置き、首都圏・名古屋・関西圏の投資家へのアドバイザリー実績多数。宅地建物取引業免許 / 東京都知事(4)第92706号公式サイト wellstar-agency.com →

FOR SUBSCRIBERS

不動産投資コラムを
定期的にお届けします

1棟収益物件投資に役立つ、
実務家ならではの視点と最新の市況を、
LINEまたはメールでお届けします。
配信は週1〜2回。ご不要になれば、いつでも解除いただけます。

LINE

公式アカウントで受け取る

LINE QRコード

QRコードまたは下のボタンから追加

LINEで友だち追加
MAIL

メールマガジンで受け取る

1分で登録完了、いつでも解除可能

メールで登録する

配信: 株式会社ウェルスターエージェンシー

上部へスクロール