年収800万円から始める1棟投資、融資の現実と可能性、私たちが大切にしていること

WELLSTAR AGENCY COLUMN

先日、42歳の会社員・Kさんから連絡があった。「区分マンションを3部屋持っているが、キャッシュフローがほぼゼロ。1棟に切り替えたいが、自分の年収で融資が下りるのか分からない」という内容だった。年収は900万円。決して弱いスペックではない。なのに、区分の販売業者から1棟への道筋を示されたことは一度もなかった、と言う。これは珍しいケースではない。

「年収800万円では1棟は無理」は、誰が言い始めたのか

結論から言えば、年収800万円は1棟投資の融資において十分に戦える水準だ。ただし「戦える」というのは、どの銀行のどのスキームで、どの物件を買うか、という条件がそろって初めて成立する話である。無条件にどこでも融資が下りる、という意味ではない。

金融機関が1棟アパート・マンションへの融資を検討する際に見ているのは、大きく三つの軸だ。①属性(年収・勤務先・勤続年数・自己資金)、②物件の収益性と担保評価、③既存の借入状況。年収は①の一部に過ぎず、②と③の組み合わせ次第で評価は大きく動く。年収800万円の会社員でも、担保評価の高い木造2棟よりも、収益還元評価の出やすいRC造1棟の方が融資額が大きく出るケースがある。

「年収1,000万円を超えないと1棟は難しい」という通説は、地方銀行・信用金庫中心で融資が動いていた2010年代初頭の話に近い。今は都市部のノンバンク系、信託銀行系のアパートローン、地銀の投資用融資ラインと、選択肢の幅が広がっている。問題は、その選択肢を整理できる人間がいるかどうかだ。

800万円〜
融資相談が現実的に動き始める年収の目安
30〜40%
物件担保評価が市場価格を下回る際の減額幅(RC造・築浅)
1.2倍以上
多くの金融機関が求めるDSCR(返済余力)の最低水準

融資が通る物件と通らない物件、その差はどこにあるか

融資審査で最も誤解されやすいのが、担保評価と市場価格の乖離だ。たとえば表面利回り7.5%で売り出されている横浜市内の築18年・木造アパート(8戸・価格1億2,000万円)があるとして、それが「割安に見える」かどうかは担保評価次第で意味が変わる。金融機関が積算評価(土地+建物の再調達原価)で弾くと、同物件の担保価値は8,500万円〜9,000万円に収まることが多い。つまり、フルローンどころか、1,500万円前後の自己資金を入れてようやく担保範囲内に収まる計算になる。

一方、収益還元評価(NOIを利回りで割り戻す方式)を採用する金融機関では、賃料収入の安定性と空室リスクが評価軸になる。駅徒歩7分以内、築20年以内、ワンルーム〜1LDK中心の間取りであれば、収益還元評価が積算評価を上回るケースもある。どちらの評価方法を使う金融機関に持ち込むかで、融資可能額は数千万円単位で変わることがある。これが、同じ物件・同じ属性でも「A銀行では通らないがB銀行では通った」が起きる理由だ。

既存の区分ローンが「足かせ」になるケース

Kさんのようにすでに区分マンションを保有している場合、注意が必要なのは既存のローン残債だ。区分マンションの投資用ローンは、収益性評価が低く、残債が担保評価を上回るオーバーローン状態になっていることが少なくない。その状態で1棟投資の融資審査に臨むと、金融機関からは「すでに債務過多ではないか」と判断されるリスクがある。区分を整理してから1棟に移行する、あるいは区分のキャッシュフローをプラスに転換してから申し込む、という段階の踏み方が現実的な場合も多い。

横浜のA氏が「利回りより先に見たもの」

横浜市保土ケ谷区で1棟アパートを運営するA氏(51歳・IT系企業の経営者・妻と子2人)は、当初、表面利回り9%台の物件を複数ピックアップして検討していた。年収は1,100万円。法人も持っており、属性的には申し分ない。ところが、最終的に彼が購入したのは表面利回り7.1%、築14年・木造軽量鉄骨混構造・8戸・購入価格1億500万円の物件だった。

決め手は「満室賃料の達成可能性」だった。利回り9%台の物件のうち2件は、現状賃料が周辺相場より1〜2割高く設定されており、退去が出た際に同水準での再入居が見込めなかった。再募集賃料を市場相場に合わせると、実質利回りは6%台に落ちる計算になる。A氏が選んだ物件は相場賃料のまま満室稼働しており、周辺の新築競合との差別化もリノベーションで対応できる余地があった。購入から2年が経過し、現在の手取りキャッシュフローは年間約380万円。「利回りの数字より、賃料の持続可能性を先に疑うようになった」と本人は言う。

「最初に見ていた9%台の物件を買っていたら、今ごろ空室に悩んでいたかもしれない。賃料は相場に引きずられるものだということが、現地を歩いて初めて分かった」

A氏・51歳・IT系企業経営者

埼玉・川口で判断を誤ったBさんの実例

一方、同時期に1棟投資を始めたBさん(46歳・大手メーカー勤務・独身・年収820万円)は、埼玉県川口市内の築23年・RC造・10戸・価格1億3,500万円(表面利回り8.4%)を購入した。融資は地方銀行から変動金利で1億1,800万円、自己資金1,700万円での決済だった。

問題が表れたのは購入から8か月後だ。10戸のうち3戸が相次いで退去し、再募集をかけたが入居まで平均2.4か月かかった。築23年のRC造は修繕積立の必要額が想定より高く、給排水管の一部改修に350万円が発生した。稼働率が低下した期間、月々のキャッシュフローはマイナスに転じ、半年間で手元資金が約180万円消えた。現在は満室に戻りつつあるが、「修繕リスクを甘く見た」とBさんは認める。RC造は遮音性や耐久性で木造を上回る半面、修繕コストが高く、部屋単価が高い分、空室1戸あたりの収益インパクトも大きい。年収820万円でも融資は通る。ただし、物件選定の基準が甘ければ、通った融資が重荷に変わる。

木造アパート(築10年以内) 修繕費発生率 32%
木造アパート(築20〜25年) 修繕費発生率 54%
RC造(築15年以内) 修繕費発生率 41%
RC造(築20〜25年) 修繕費発生率 68%

※保有1〜3年目に修繕費(50万円以上)が発生した件数の割合。当社取り扱い実績データより。

私たちが物件提案で守っている三つの基準

15年この仕事をしていて、収益不動産の案件を見る目は単純化されてきた。「融資が通るかどうか」と「買って後悔しないか」は、まったく別の問いだということが分かってきたからだ。私たちが社内で物件を精査するときに使っている基準は、以下のような考え方に基づいている。

まず、現状賃料が周辺相場の95〜105%の範囲に収まっているかどうか。これを外れると、退去後の賃料修正リスクが顕在化する。次に、築年数と構造に対応した修繕計画を、購入前に金額ベースで試算できているかどうか。「だいたいこのくらい」という感覚論は通用しない。共用部・外壁・設備の状態を実際に現地確認し、ざっくりでも10年分の修繕シミュレーションを回す。

三つ目は、出口を想定した流動性だ。将来売却するときに、誰が買い手になり得るか。エンドユーザーへの売却も視野に入る立地か、それとも投資家専用マーケットでしか売れない物件か。後者でも悪いわけではないが、買い手が限定されると、売却時の価格交渉力が落ちる。キャッシュフローだけでなく、最終的な出口価格まで込みで「資産として成立するか」を問う姿勢は、区分であれ1棟であれ変わらない。

確認項目 木造アパート RC造マンション
融資期間の目安 法定耐用年数(22年)-築年数。残存が短いほど不利 法定耐用年数(47年)-築年数。長期融資が組みやすい
担保評価の特性 土地評価が主体。建物評価は低め 積算・収益還元ともに評価が出やすい
修繕コストの水準 RC造より低め。ただし外壁・屋根の定期修繕は必要 給排水・エレベーター等で高コスト化しやすい
空室影響の大きさ 戸数が多ければ1戸の影響は分散しやすい 戸単価が高い分、空室1戸のインパクトが大きい
出口の流動性 投資家向け市場が中心。エリアによって差が大きい 実需転用・区分化が可能な場合もあり、買い手が広がりやすい

自己資金はいくら必要か、現実の数字を整理する

「フルローンで買えますか」という質問は今でも受けるが、2024年現在、投資用1棟物件でフルローンが通るケースはかなり限定的だ。属性・物件・金融機関の三つがそろった特殊条件下では起きるが、それを前提に計画を立てることは危険だ。現実的には、物件価格の10〜20%の自己資金、加えて諸費用(取得税・登記・仲介手数料等)として物件価格の6〜8%を用意しておくのが標準的な準備水準だ。1億円の物件であれば、手元に1,600万〜2,800万円が必要になる計算になる。

年収800万円の会社員が、この水準の自己資金を用意するには何年かかるか。それは貯蓄力と既存資産次第だが、「今すぐ始められるか」よりも「いつ、どの規模から始めるか」を逆算する方が建設的だ。自分が現時点でどの規模の物件に手が届くのかは、1棟投資 購入力診断で30秒もあれば大まかに把握できる。感覚で悩むより、数字に落とした方が次の一手が明確になる。

融資が通ることと、買って良かったと言える物件を選ぶことは、まったく別のプロセスだ。前者は銀行が判断し、後者はあなたが判断する。その二つを混同すると、「融資が通ったから買った」という後悔に至りやすい。

私たちが「大切にしていること」の中身

業界の慣習として、不動産会社は仲介手数料で収益を得る。物件が高く売れるほど、手数料収入は増える。この構造の中で「お客様の利益を最優先に」と言っても、言葉だけでは意味がない。私たちが実際に行っていることは、提案前の物件精査で「この物件は勧めない」という判断を社内で明示的に行うことだ。表面上の利回りが高くても、修繕リスクが読めない、賃料の持続性に疑問がある、担保評価が著しく低い、といった物件はリストから外す。その結果、ご紹介できる物件数は絞られる。それで構わないと考えている。

また、購入後の管理状況についても、少なくとも初年度は定期的に確認している。管理会社の対応、入居率の推移、修繕の発生状況。これは義務ではないが、やらなければ「買って終わり」の業者との差がなくなる。Bさんの案件でも、空室が続いた時期に管理会社の変更を提案したのは私たちだった。担当が変わり、募集図面を作り直し、礼金の設定を見直した結果、2か月以内に2戸の入居が決まった。売買仲介と管理は本来つながっているものだと思っている。

1棟投資を初めて検討している方向けの個別相談は、はじめての1棟投資 無料相談から受け付けている。「まだ準備が整っていない」という段階でも、現時点の数字を整理してから話すだけで、次のアクションが明確になることが多い。

始める前に、自分に問うべきこと

融資の現実と物件選びの基準を知ることは、1棟投資の入口に立つための条件だ。しかしそれだけでは足りない。あなたが1棟投資を通じて10年後に何を実現したいのか、という問いは避けられない。キャッシュフローの積み上げなのか、資産規模の拡大なのか、相続対策を兼ねた資産の組み替えなのか。その目的によって、どの物件を、どのタイミングで、どの規模から買うかという答えは変わってくる。

「年収800万円でも始められますか」という問いへの答えは、始められる。ただし、何を目的に、どの物件を選んで、どう運営するかを自分の言葉で説明できる状態で始めてほしい。その準備ができていない人に、安易に「買えますよ」と言うのは、私たちの仕事ではないと考えている。

株式会社ウェルスターエージェンシー監修株式会社ウェルスターエージェンシー投資用1棟収益物件に特化した不動産仲介・コンサルティング会社。CF・IRR・DSCRを重視した数値ベースの投資判断と、融資戦略・出口戦略まで一貫して支援。東京都中央区に拠点を置き、首都圏・名古屋・関西圏の投資家へのアドバイザリー実績多数。宅地建物取引業免許 / 東京都知事(4)第92706号公式サイト wellstar-agency.com →

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配信: 株式会社ウェルスターエージェンシー

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