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建築基準法改正で既存不動産が「違反建築物」に、対処法と売却への影響

WELLSTAR AGENCY COLUMN

先日、埼玉県川口市で1棟マンションを保有するKさん(40代・IT系会社員)から相談を受けた。購入時の重要事項説明書には「既存不適格建築物」と記載されていたが、それほど気にしていなかったという。ところが2024年の建築基準法改正を受け、担当していた管理会社から「場合によっては違反建築物になる可能性がある」と告げられ、売却を検討し始めたが金融機関の評価が大幅に下がって立ち往生している──そういう内容だった。

「既存不適格」と「違反建築物」は、語感は似ていても法的な扱いはまるで違う。この差を理解していない投資家が、改正のたびに損失を被っている。

「既存不適格」と「違反建築物」、何が違うのか

既存不適格建築物とは、建築当時は適法だったが、その後の法改正によって現行基準を満たさなくなった建物のことだ。違反建築物ではないため、行政から是正命令が飛んでくることはなく、現状のまま使用し続けることが認められている。いわば「時代遅れだが罪はない」状態だ。

一方、違反建築物は建築当時から基準に違反していたか、あるいは増改築や用途変更によって現行法に抵触する状態になったものを指す。建築基準法第9条に基づく是正命令、使用禁止処分の対象になり、悪質な場合は刑事罰(100万円以下の罰金)まで及ぶ。

ここで見落としがちな第三のパターンがある。それが「改正によって既存不適格から違反建築物へ転落する」ケースだ。法律の建て付け上、改正内容と経過措置の設計によっては、これまで「黙認」されていた不適格状態が、新基準の施行後に「違反」と認定されることがある。特に問題になりやすいのが、容積率超過・建ぺい率超過の物件が増改築や用途変更を行った場合、あるいは一定の安全性能を義務付ける改正で「作為的な不作為」が問われるパターンだ。

2024〜2025年の法改正で何が変わったか

2024年4月施行の改正建築基準法では、木造建築物の構造規制が大幅に見直された。従来、2階建て・延べ床面積500㎡以下の木造建物には許容応力度計算が不要だったが、改正後は階数・規模にかかわらず、構造計算書の添付義務が段階的に強化されている。また、省エネ基準への適合義務(建築物省エネ法との連動)も拡張され、既存建物が大規模修繕・増築を行う際には現行省エネ基準への適合が求められるようになった。

問題はここだ。「大規模の修繕・模様替え」の定義が実務上あいまいで、管理会社や設計者の解釈によって「大規模か否か」の判断が分かれる。外壁の全面塗装が「大規模の修繕」に該当するかどうかを曖昧なまま進め、後から確認申請が必要だったと指摘されるケースは既に複数起きている。

構造規制の強化(木造) 影響物件割合 約68%
省エネ基準への適合義務拡張 約54%
用途変更時の確認申請義務厳格化 約39%
「大規模修繕」定義の厳格化 約47%

※国土交通省公表データ及び複数の設計事務所へのヒアリングをもとに筆者推計。築20年超の投資用物件における各改正項目の影響可能性(複数該当あり)。

さらに見逃せないのが2025年4月から本格運用が始まった「建築物の安全性に関する定期調査報告制度」の対象拡大だ。従来は特定建築物(一定規模以上の建物)が対象だったが、規模要件の引き下げにより、中規模の賃貸マンション・アパートも対象に入ってくる。報告義務を果たさなければ、それ自体が違反として記録される。

融資と担保評価への直撃──数字で見る実害

投資家にとって最も痛いのは、融資評価への影響だ。金融機関は担保物件の法的適合性を審査の重要因子として扱っており、違反建築物と認定された、あるいは違反の疑いが濃い物件に対しては、担保掛目を大幅に引き下げるか、融資自体を謝絶する。

25〜35%
担保評価額の減額幅(違反疑い物件)
約60%
既存不適格物件への融資謝絶率(地銀・信金調査)
3〜6ヶ月
是正対応から再審査完了までの平均期間

既存不適格のままでも融資が通りにくい状況は以前からあったが、今回の改正後は「不適格から違反への転落リスク」そのものがリスク要因として評価対象に加わっている。つまり、現時点で適法・既存不適格であっても、「次の大規模修繕で違反になる可能性がある」という理由で、融資条件が悪化するケースが出始めている。

横浜市内で築32年・全18室の1棟マンション(購入価格1億2,000万円、表面利回り7.8%)を保有するA氏(50代・会社経営)の話はこの構図を端的に示している。購入時から容積率が現行基準を約12%超過しており、既存不適格として把握していた。2023年の段階では3行の地銀から融資の打診があったが、2024年秋に別物件の追加融資申込をした際、担当行から「既存保有物件の法的リスク再審査が必要」と言われ、2ヶ月以上手続きが止まった。再審査の結果、横浜の物件の担保評価額が購入時の査定から約28%引き下げられ、追加融資の条件が大幅に悪化した。A氏はその後、横浜の物件の売却を検討し始めたが、今度は売却価格にも影響が出るという問題に直面することになった。

「既存不適格は知っていた。ただ、それが突然ここまで評価に響くとは思っていなかった。法改正で扱いが変わるなら、購入時に誰かが教えてくれていれば判断も違ったはずだ」

A氏・50代・会社経営・横浜市

違反建築物になった物件を売る──現実的な選択肢

売却を検討する場合、まず現状の法的ステータスを正確に把握することが先決だ。「違反建築物か否か」は自己判断が難しく、建築士(特定行政庁に提出できる一級建築士)による現況調査と、市区町村の建築確認台帳の閲覧が基本的な調査ルートになる。台帳に記録がない増築・用途変更がある場合、それ自体が違反の端緒になる。

調査の結果、違反建築物と確認された場合の選択肢は大きく三つに分かれる。

一つ目は是正して売却する方法だ。違反内容を建築士と協議し、是正工事を行った上で検査済証の取得(または適法確認書類の整備)を経て売り出す。費用と時間がかかるが、買い手の選択肢が広がり、融資付きの成約が可能になる。容積率超過のような「構造上の違反」は是正が極めて困難だが、確認申請漏れや防火設備の未設置といった「手続き・設備上の違反」は是正できるケースが多い。

二つ目は現状のまま現金買いのバイヤーに売却する方法だ。価格は市場価格から15〜30%のディスカウントが相場感になるが、スピードと確実性は高い。買取専門の不動産会社や、法的リスクを飲み込んで割安価格で取得するファンドがこの市場の主な担い手だ。売主側のリスクは「現状渡し」「瑕疵担保(契約不適合責任)の限定」を契約に盛り込めるかどうかにかかっている。

三つ目は取り壊して更地渡しで売却する方法だ。建物の資産価値がほぼゼロに近い場合、解体費用を負担してでも更地にした方が売却価格が高くなるケースがある。ただし解体費用の相場(木造1棟アパートで200〜400万円程度)を考慮した収支計算が必要だ。

「違反転落リスク」がある物件を保有し続けるなら

今すぐ動くべき調査と記録の整備

現時点で違反建築物ではなくても、今後のリスクを低減するために優先して行うべきことがある。まず建築確認台帳の閲覧と現況の照合だ。台帳に登録されている用途・構造・階数・床面積と、実際の建物状態が一致しているかを確認する。増築・内部改造がある物件では特にズレが生じやすい。

次に、大規模修繕計画の精査だ。改正後の「大規模の修繕・模様替え」の定義に基づき、計画中の工事が確認申請を要するかどうかを設計士に事前確認しておく。「問題ないだろう」という慣習的判断で進めると、後から是正費用が発生する。

定期調査報告制度の対象拡大については、自物件が新たに対象になるかどうかを特定行政庁(市区町村の建築指導課)に確認し、報告スケジュールを把握しておくべきだ。報告義務の不履行は、それ自体が違反記録として残り、後の売却査定に響く。

保有・売却の判断軸をどこに置くか

大阪市淀川区で築28年・木造アパート全8室(購入価格3,800万円、利回り9.2%)を保有するBさん(60代・元公務員・定年退職後に不動産投資を開始)は、2024年の構造規制強化を受けて現況調査を依頼した。調査の結果、建物自体の構造には問題がなかったものの、2階部分の一室が過去に無届けで増築されており、床面積が台帳記録を約8㎡超過していることが判明した。この状態で大規模修繕を行うと確認申請が必要になり、申請時に床面積超過が表面化して是正を求められる可能性があった。

Bさんが選んだのは、現状のまま2〜3年保有し続け、満室稼働でキャッシュフローを確保しながら是正可否の判断を先延ばしにするという方法ではなく、今期中に買取業者への売却を確定させることだった。最終的な売却価格は2,900万円と購入価格を大幅に下回ったが、「これ以上の修繕を行うと違反が顕在化するリスクがあり、空室が出た時点で物件価値がさらに下がる」という判断で踏み切った。損切りとも言えるが、このタイミングでの売却判断が後の融資枠を守ることにつながり、別物件の購入を可能にした。

違反建築物リスクの核心は「今の違反」ではなく「修繕・売却・融資という行動を起こした瞬間にリスクが顕在化する」構造にある。動かない限り問題が表面化しないため、放置コストを過小評価しやすい。

売却価格への影響を最小化するための実務的な順序

違反建築物あるいは高リスクの既存不適格物件を売却する際、価格への影響を少しでも抑えるための実務的な手順がある。

まず、売却前に建築士による法的現況調査を自費で行い、調査報告書を取得しておく。これをしないまま売り出すと、買主側の調査で問題が発覚した際に大幅な値引き交渉に持ち込まれる。事前に問題を把握し、「分かっていて売っている」状態を作ることで、契約不適合責任のリスクも限定できる。

次に、仲介よりも買取を優先する判断をいつするかだ。仲介での売却は時間がかかり、融資付きの一般買主には法的リスク物件は売りにくい。期間を決めて仲介を試み、成約しない場合は買取に切り替えるという方針を最初から持っておくことで、出口が詰まる事態を防げる。

また、売却に際して重要事項説明書への記載内容を精緻に作ることも売主の利益につながる。違反の内容・経緯・是正の可否を正確に記載することで、後のトラブルを減らせる。「知らなかった」という言い訳が通じるのは個人間売買のみであり、投資物件の売却では原則通じないと考えておくべきだ。

是正後に仲介売却 市場価格比 約95〜100%
現状不適格のまま仲介売却 市場価格比 約75〜85%
違反建築物を買取業者に売却 市場価格比 約65〜75%
更地渡し(解体後) 土地値基準 約90〜95%

※複数の仲介・買取事例をもとにした目安。立地・築年数・違反内容により大きく異なる。

もう一点、出口戦略として見落とされがちなのが「セットバック・容積消化型の建替え」だ。容積率超過の物件を保有している場合、違反建築物のまま売るのではなく、現建物を解体して建替え前提で売却するほうが、土地値+建替えポテンシャルとして評価が上がるケースがある。特に都市部の利便性の高いエリアでは、更地か建替え用地としての需要が底堅い。

改正を「リスク」で終わらせず「棚卸しの機会」に変える

法改正が来るたびに保有物件の法的ステータスを確認している投資家は、実際には少数だ。確認申請台帳の閲覧、建物の現況との照合、修繕計画との整合性チェック──これらを定期的に行うだけで、多くの「突然の問題発覚」は防げる。

違反建築物に転落するリスクを早期に把握していれば、選択肢は多い。是正か売却かを余裕を持って判断できる。しかし、修繕や売却のタイミングで初めて問題が判明すると、選択肢は一気に狭まり、コストだけが跳ね上がる。

今保有している物件の確認済証と検査済証を、いま一度引き出しから取り出してみてほしい。そこに記載された用途・床面積・構造と、実際の建物が一致しているか。それだけで、あなたの物件が「次の改正で問題になるかどうか」の大まかな見当はつく。

株式会社ウェルスターエージェンシー監修株式会社ウェルスターエージェンシー投資用1棟収益物件に特化した不動産仲介・コンサルティング会社。CF・IRR・DSCRを重視した数値ベースの投資判断と、融資戦略・出口戦略まで一貫して支援。東京都中央区に拠点を置き、首都圏・名古屋・関西圏の投資家へのアドバイザリー実績多数。宅地建物取引業免許 / 東京都知事(4)第92706号公式サイト wellstar-agency.com →

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