特定警戒区域での物件取得リスク

WELLSTAR AGENCY COLUMN

先日、40代の会社員投資家から相談を受けた。「利回り12%の物件があるんですが、なぜか他の投資家が誰も手を出さない。何か見落としてますか」──その物件の所在地をハザードマップで確認すると、土砂災害特別警戒区域(いわゆるレッドゾーン)の指定を受けていた。利回りが高い理由は、誰も買わないからだ。

「利回り12%」の正体が区域指定だったとき

土砂災害防止法に基づく特別警戒区域(レッドゾーン)、水防法に基づく浸水想定区域のうち浸水深3m以上のエリア、津波防災地域づくり法による津波災害特別警戒区域──これらはいずれも「特定警戒区域」と総称されることがあるが、法的根拠は異なる。投資家が混同しがちなのは、イエローゾーン(土砂災害警戒区域)とレッドゾーンの差だ。前者は情報提供が義務付けられる水準、後者は開発行為や建築に規制がかかる水準であり、融資審査・保険引き受け・出口売却において受ける影響がまるで違う。

表面利回りの高さは、バイサイドの競合が少ないことの反映にすぎない。競合が少ない理由は「知る人が少ないから」ではなく「知っている人が避けているから」であることが大半だ。この非対称性を理解していない投資家が、区域物件を掴む。

融資・保険・出口の三重苦──数字で見る現実

特定警戒区域の物件に対して金融機関がどう評価するか。筆者が複数の地銀・信金の担当者から聞き取った感触と、実際に融資打診を断られた案件をもとに整理すると、担保評価の減額幅・融資可能額の差・保有後の売却期間の長期化という三点が浮かぶ。

30〜40%
担保評価の減額幅(レッドゾーン・地銀平均)
1.8倍
通常エリアと比較した売却所要期間
約6割
火災保険・水害補償が付帯困難な割合

担保評価の減額は、LTVを直撃する。仮に1億円の物件でも担保評価が6,000万円台に圧縮されれば、自己資金の要求額が跳ね上がる。自己資金を積んで取得できたとしても、次の問題は保険だ。レッドゾーンに指定された物件は、損害保険会社が水害・土砂崩れ補償の引き受けを拒絶するケースが増えている。物件が被災したとき、ノーガードで損失を丸ごと被ることになる。

そして出口。区域指定物件を購入できる買い手は、同じリスクを許容できる属性に絞られる。現金購入者か、区域指定を理解した上で覚悟を持つ投資家だ。この層は薄い。売りに出しても反応が来ない期間が延び、最終的に価格を落とさなければ成約しないという構造が固定化する。

大阪市内の事例──「取得は正解、出口が誤算」

大阪市淀川区で2棟のRC造マンションを保有するB氏(50代・自営業・妻と子2人)は、2018年に神戸市北区の山手エリアで築23年・木造アパート8戸・取得価格4,800万円・表面利回り10.2%の物件を購入した。取得時点でイエローゾーン(土砂災害警戒区域)の指定があることは仲介業者から説明を受けていたが、「警戒区域であってレッドではない」という解釈のもと、地元の信用金庫から5年固定2.3%で3,500万円の融資を引いた。

問題が表面化したのは2023年、B氏が淀川区の新規物件取得に向けて信用金庫に追加融資を打診したときだ。担当者から「北区の物件が現在イエローゾーンからレッドゾーンへの編入を検討中のエリアに入っており、リスク評価を見直している」と告げられた。結果として追加融資の審査が保留となり、新規物件の取得機会を逃した。B氏は北区の物件を売却して信用枠を整理しようとしたが、査定価格は3,100万円──取得価格より1,700万円の下落で、かつ3ヶ月経過しても買付が入らなかった。

「警戒区域とレッドゾーンは別物だと思っていた。でも金融機関はそう見ていなかった」

B氏・50代自営業

B氏のケースで学べるのは、「現時点の区域指定」だけでなく「区域変更の動向」を追う必要があるという点だ。国土交通省や各都道府県は定期的に基礎調査を行い、区域指定の見直しを行う。取得時点でイエローゾーンであっても、地形・気候変動への対応で数年後にレッドへ格上げされることがある。この動態リスクは、静的なハザードマップ確認だけでは捕捉できない。

区域指定物件が金融機関に「見える」仕組み

2020年の宅地建物取引業法改正により、水害ハザードマップにおける対象物件の所在地についての説明が重要事項説明に追加された。これにより、仲介業者は売主・買主双方に対してハザードマップ上の位置を示す義務を負う。

しかし金融機関の審査はさらに一歩先を行く。主要な地銀・信金は、物件住所を入力するだけで土砂災害警戒区域・特別警戒区域・浸水想定区域をスクリーニングできるシステムを内部に持ち始めている。担当者が「知らなかった」という状況は今や成立しにくい。担保評価担当が物件を見た瞬間に区域フラグが立ち、評価減の処理が走る。

投資家が見落としがちなのは、既存の他物件への波及だ。区域物件1棟を保有しているだけで、その投資家のポートフォリオ全体の信用評価に影響が出る金融機関がある。「あの物件さえなければ追加融資できたのに」というフレーズを、融資相談の現場で何度か耳にした。

レッドゾーン指定物件:担保評価減 38%
イエローゾーン指定物件:担保評価減 18%
浸水深3m超エリア:担保評価減 25%
区域外(通常エリア):担保評価減 0%

※複数地銀・信金への聞き取りをもとにした目安値。機関により差異あり。

それでも取得を検討するなら──条件の絞り込み方

区域物件を一律に排除すれば話は単純だが、実際には地方の高利回り物件や相続案件では区域指定が前提になっているケースも多い。完全に避けきれない場面はある。その前提で、取得を許容できる条件の枠組みを整理しておきたい。

現金購入と融資比率の設計

区域物件で融資を使う場合、LTVは50%以下に抑えることを原則にする。担保評価減を織り込んだ上でなお安全余裕のある水準だ。さらに言えば、当該物件単体の融資は使わず、既存の区域外物件を担保に資金調達し、区域物件は現金で購入するという「クロス担保回避」の発想も有効だ。区域物件に融資を紐付けると、その物件の価値毀損が融資条件に直結するリスクを切り離せる。

保険の引き受け可否を先に確認する

物件の買付証明を入れる前に、保険会社への照会を行う。火災保険の引き受けを断られた物件は、金融機関の融資条件も満たせない可能性が高い(多くの金融機関が融資実行の条件として火災保険の付保を求める)。照会は無料でできるため、売買契約の前段階で終わらせる。土砂・水害補償が外れた火災保険しか引き受けてもらえない場合、リスクのどこを自己負担するかを明確にした上で判断する。

もう一つ、建物の構造と立地の微地形を見ることが現場判断として効く。同じレッドゾーンの指定を受けていても、谷筋の底部に位置する物件と、指定区域の縁辺部で傾斜方向から離れた位置にある物件では、実際のリスク量が違う。現地で地形図と照合し、「何の被害」が「どの方向から」「どれくらいの規模で」起きるかをイメージできる状態で判断する。行政窓口(都道府県の砂防担当課など)に問い合わせると、指定の根拠となった調査結果を開示してもらえるケースがある。

埼玉県の事例──出口を設計してから取得した例

埼玉県川口市で3棟を保有するC氏(40代・医師・独身)は、2021年に群馬県渋川市で築35年・木造アパート6戸・取得価格1,200万円・表面利回り14.8%の物件を現金で購入した。物件は浸水想定区域(浸水深0.5〜1.0m)に指定されていたが、C氏は取得前に以下の確認を完了させていた。火災保険(水害補償は外れたが建物・家財は引き受け可)、売却時の出口候補として地元の地主系買取業者2社への事前打診(うち1社が「850万円で引き取る」と口頭で回答)、そして建物が木造であることから解体・更地売却のシナリオ試算(解体費用200万円・土地評価600万円で最低限の担保ライン確認)。

C氏は5年間の保有で家賃収入合計約890万円を回収し、2026年に910万円で地元業者に売却した。取得価格との差は△290万円だったが、賃料収入と合算すると収支はプラスで着地した。「利回りが高い物件には理由がある。その理由を飲み込めるかどうかが判断の全てだった」と本人は話す。

「取得前に出口を2つ確保してから買った。保有中に何があっても、最悪の損失額が見えていた」

C氏・40代医師

C氏のアプローチが示すのは、区域物件の取得可否は「利回りが高いかどうか」ではなく「最悪シナリオの損失額を事前に確定できるかどうか」で判断するという発想の転換だ。損失の上限が見えている投資と、損失の上限が不明な投資は、リスクの種類が根本的に異なる。

区域指定の調べ方と確認すべき情報源

実務で使う確認先を整理する。

確認項目 情報源 費用・所要時間
土砂災害警戒区域・特別警戒区域 各都道府県の砂防・治水課/国土交通省GIS 無料・即時
浸水想定区域(洪水・内水・高潮) 国土交通省「重ねるハザードマップ」 無料・即時
津波災害特別警戒区域 都道府県の海岸管理課・港湾課 無料・数日
区域変更の動向(基礎調査の進捗) 都道府県の砂防担当課への電話照会 無料・即日〜数日
保険引き受け可否・補償範囲 損害保険代理店(複数社に並行照会) 無料・3〜7営業日
金融機関の担保評価水準 融資担当者への事前相談(正式申込前) 無料・1〜2週間

「重ねるハザードマップ」は複数の災害リスクを一つの画面で重ね表示できるため、一点で複数のリスクが重複していないかを確認するのに向いている。ただし表示データの更新タイミングは自治体によって異なるため、最新情報は各都道府県窓口に当たる習慣をつける。

区域物件の判断軸は「利回りの高さ」ではなく「最悪シナリオの損失額を事前に確定できるか」だ。損失の上限が見えている投資だけが、計算可能なリスクになる。

既存ポートフォリオに区域物件が混入していた場合

すでに保有している物件の中に区域指定物件が含まれていた、あるいは取得後に区域指定を受けた場合、選択肢は三つある。保有継続・売却・建替え(用途変更)だ。

保有継続を選ぶなら、金融機関との関係管理が優先課題になる。担当者に先手を打って「区域指定を認識しており、リスク管理策を取っている」という情報を渡しておくことで、次回の融資審査で「問題あり物件を隠している」という印象を与えずに済む。具体的には、建物の定期点検記録・排水設備の整備状況・賃料入金の安定性を示すデータを、年に一度程度、担当者に見せる機会を作る。

売却を選ぶ場合、通常の仲介より買取業者への打診を先に行う。区域物件は市場に出しても反応が薄く、長期間売れ残ることで「売れない物件」というレッテルが貼られ、さらに価格が下がる悪循環に入りやすい。買取価格は仲介成約価格より低くなるが、確実性と速度で勝る。売出し前に買取査定を取り、その価格を「下限」として設定した上で仲介に出す、という二段構えが現実的だ。

建替えや用途変更は、レッドゾーンでは法的制約がある。特別警戒区域内での居住用建築物の新築・増築は、都道府県知事の許可が必要で、構造に関する技術的基準を満たさなければ許可が下りない。土地活用として駐車場・資材置き場への転換は制約が少ないが、収益性との兼ね合いで判断が分かれる。

区域物件を一棟抱えているだけで、投資家としての信用枠全体が圧迫される──この構造を実感するのは、たいてい次の物件を取得しようとしたときだ。「あの一棟がなければ」という後悔の言葉は、現場で思いのほか多く聞く。保有中に区域指定を受けた場合は特に、判断を先送りするコストが静かに積み上がっていく。

あなたのポートフォリオに今、ハザードマップを重ねてみたとき、何色のゾーンに物件が座っているか。その答えが出ていない状態で次の取得を検討するのは、土台の確認を後回しにしたまま増築するようなものだ。

株式会社ウェルスターエージェンシー監修株式会社ウェルスターエージェンシー投資用1棟収益物件に特化した不動産仲介・コンサルティング会社。CF・IRR・DSCRを重視した数値ベースの投資判断と、融資戦略・出口戦略まで一貫して支援。東京都中央区に拠点を置き、首都圏・名古屋・関西圏の投資家へのアドバイザリー実績多数。宅地建物取引業免許 / 東京都知事(4)第92706号公式サイト wellstar-agency.com →

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配信: 株式会社ウェルスターエージェンシー

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