親の家を相続したときの固定資産税と維持費

WELLSTAR AGENCY COLUMN

相続の手続きが一段落して、ふと気づく。「この家、これからどうする?」。遺産分割協議書にサインして法務局へ提出し、ほっと一息ついた矢先に、翌年の春、見慣れない封書が届く。固定資産税・都市計画税の納税通知書だ。親が払っていたから存在は知っていたが、自分が受け取ると話は別になる。

固定資産税は「放っておくと勝手に増える」仕組みになっている

固定資産税の税率は課税標準額の1.4%、都市計画税は0.3%、合計で1.7%が基本だ。ただし、住宅が建っている土地は「住宅用地の特例」が適用され、200㎡以下の部分(小規模住宅用地)は固定資産税が1/6、都市計画税が1/3に減額される。つまり、建物を解体した瞬間にこの特例が消え、土地の税負担が最大で6倍に跳ね上がる。

「古い家だから壊してスッキリさせよう」という判断が、税額を劇的に増やすことがある。更地にしたほうが売りやすいケースもあるが、固定資産税の変動を計算してからでないと、年間の維持コストが想定外の水準に膨らむ。

建物が存在する限り、土地の固定資産税は最大1/6に圧縮されている。解体前に「特例消滅後の税額シミュレーション」を必ず行うこと。この一手間が、年単位のコスト差を生む。

固定資産税の課税標準額は3年ごとに評価替えが行われる。地価が上昇しているエリアでは、評価額が段階的に引き上げられ、納税額も少しずつ増える。親が亡くなる前から同じ家に住んでいれば「いつの間にか高くなった」と感じる変化も、相続後に初めて払う立場になると、より鮮明に数字と向き合うことになる。

毎年かかる維持費の全体像──固定資産税だけでは終わらない

相続した家の年間コストを把握するには、固定資産税・都市計画税に加えて、建物の維持費を重ねて見る必要がある。以下の数値はあくまで目安だが、築30年前後の木造一戸建てを誰も住まずに所有し続けた場合、年間の実費はこうなる。

8〜15万円
固定資産税+都市計画税(住宅用地特例あり)
3〜6万円
火災・地震保険料(年換算)
5〜20万円
外構・庭・建物の最低限のメンテナンス

合計すると、誰も住んでいない状態でも年間16〜41万円程度の出費が生じる。さらに、水道・電気の基本料金を残していれば数万円が加わり、5年に一度の大規模修繕(屋根・外壁塗装など)を平準化すれば年額換算でさらに20万円前後が乗る。「ただ持っているだけ」の状態は、実は相当なコストセンターだ。

ここで、空き家のまま放置したときに追加で発生するリスクも見ておく必要がある。2023年施行の「空家等対策の推進に関する特別措置法」の改正で、管理不全の空き家は「管理不全空家」として指定され、住宅用地特例が外される可能性が生まれた。自治体が勧告・命令を出した後も改善しない場合、更地と同じ税額が適用される。親の家を持ち続けるなら、建物の状態を維持する義務が法的にも明確になっている。

神奈川県茅ヶ崎市のケース──「売るタイミング」を3年迷った結果

神奈川県茅ヶ崎市在住のA氏(60代・元公務員・妻と2人暮らし)は、母親が亡くなったあと、築42年の木造一戸建て(土地85㎡・建物120㎡)を単独相続した。最寄り駅から徒歩12分、周辺の売却相場は3,200〜3,800万円という立地だった。

「まだ住めるし、すぐ売るのも忍びない」という感情から、A氏は3年間そのままにした。その間、固定資産税・都市計画税が年間約11万円、火災保険が年4万円、庭の草刈りと外壁の一部補修で計22万円、合計で3年間に約111万円を支出した。さらに、3年目に屋根の一部が雨漏りし、修繕費用として68万円が追加でかかった。

結果として、A氏は相続から3年3か月後に3,350万円で売却した。「あのとき相続直後に売っていれば、3年間で180万円近くのコストを払わずに済んだし、売値もほぼ変わらなかったかもしれない」と振り返る。感情的な判断の保留が、実費として積み上がった典型的な事例だ。

「母の家だから、と思うと踏み切れなかった。でも結局、誰も住まない家のために毎年お金が出ていくのは、母も望んでいなかったと思う」

A氏・60代・元公務員

相続税の申告期限は相続開始から10か月以内だが、不動産の活用方針を決めるタイムリミットはそれより早い。相続税の納税資金が不動産売却から出る場合、売却活動の期間も逆算しなければならない。相続税の概算は相続税目安チェッカーで3分で試算できるので、まず数字を把握することが出発点になる。

「貸す」選択肢は本当に得か──賃貸に出す前に知っておくべき収支の現実

「売るのは惜しいが、遊ばせておくのも損。ならば貸せばいい」という発想は自然だ。ただし、相続した一戸建てを賃貸に出すのは、新築アパートを貸すのとは状況が大きく違う。

リフォーム費用が収益を食いつぶすリスク

築30年超の木造一戸建てを賃貸に出す場合、最低限のリフォーム(キッチン・浴室・クロス張替え・給湯器交換など)で300〜600万円程度かかることが多い。月額家賃を仮に10万円取れたとしても、年間収入は120万円。固定資産税・保険・管理費・修繕積立を差し引くと手取りは70〜80万円程度になる。300万円のリフォーム投資を回収するだけで4年近くかかる計算だ。

さらに、借主が入居中は原則として退去を求めにくい。「将来的にこの家に住む可能性がある」「相続人の誰かが欲しいと言うかもしれない」という状況なら、賃貸契約は慎重に組む必要がある。定期借家契約(期間満了で確実に終了)を選ぶか、リフォーム費用を回収できる期間を最低契約年数として設定することが現実的な対処になる。

固定資産税の節税効果は思ったより小さい

賃貸収入が発生すると、固定資産税は必要経費として所得税の計算上控除できる。しかし、住宅用地の特例は「居住用」かどうかに関係なく、建物があれば適用される。つまり、賃貸に出しても更地にするより税額が安いことに変わりはなく、「賃貸にすると税金が安くなる」は正確ではない。節税効果の本体は「建物を存続させること」であり、賃貸か自己居住かによる差は所得税の計算部分だけだ。

更地(特例なし)の固定資産税 100%
建物あり(小規模住宅用地200㎡以下)16.7%
建物あり(一般住宅用地200㎡超)33.3%

埼玉県所沢市のケース──賃貸にしてよかった理由と誤算

埼玉県所沢市でB氏(50代後半・会社員・子ども2人)は、父親から築38年の木造一戸建て(土地160㎡・建物105㎡)を兄弟3人で相続した。法定相続分どおりの共有名義を選んだが、兄が「しばらく売りたくない」と主張したため、賃貸活用で合意した。

リフォームに480万円を投じ、月額9万5,000円で入居者を募集したところ、2か月で入居が決まった。年間賃料収入は114万円。3人で分割すると1人あたり年38万円だが、固定資産税(年約8万5,000円)・火災保険・管理委託料(家賃の5%)・修繕費の積立を引くと、実質的な手取りは3人合計で年70万円程度になった。リフォーム費用の回収には約7年かかる見込みだ。

ただし、B氏のケースで予想外だったのは、共有名義のまま賃貸に出したことで、入居者とのトラブル時に「3人の合意を取り付けてから対応する」という手順が発生し、意思決定に時間がかかることだった。賃貸中に外壁塗装の必要が生じた際、兄と弟で修繕の範囲について意見が割れ、判断に2か月以上かかった。共有名義で賃貸する場合、意思決定ルールを事前に書面で決めておくことが、後々の摩擦を防ぐ。

売る・貸す・住む──3択の損益を数字で比べる

選択肢 初期コスト 年間維持費 収益性 流動性 向いているケース
売却 仲介手数料3%+6万円(税別)・測量費など 売却後はゼロ 売却益に譲渡所得税(20.315%) 高い 相続人が複数・資金化を急ぐ・維持に誰も関与できない
賃貸 リフォーム費300〜600万円 税・保険・管理費で年20〜30万円 手取り利回り3〜5%程度 低い(入居者がいると売れない) 立地が賃貸需要を見込める・長期保有できる・建物状態が良い
居住(自己使用) 引越し・リフォーム費 固定資産税・保険・修繕 家賃相当の節約効果 中程度 相続人が住む場所を求めている・親の家が利便性の高い立地
空き家のまま保有 なし 年16〜40万円(修繕別) マイナス 高い(いつでも売れる) 方針が決まるまでの一時的な状態にとどめるべき

売却時の譲渡所得税には「相続空き家の3,000万円特別控除(措置法35条3項)」が適用できる場合がある。被相続人が一人で居住していた家を相続し、相続後3年以内に売却、かつ売却時点で空き家であること(または取壊し後の土地であること)などの条件を満たせば、譲渡所得から最大3,000万円が控除される。この特例の期限と条件は改正が入ることもあるため、税理士への確認が前提だが、売却益が大きい場合の節税効果は相当に大きい。

相続後にやるべき手順と、先送りが許されない期限

相続が発生してから、不動産に関してやるべき手続きは、大きく3つの期限で整理できる。

まず、相続開始から3か月以内に「相続放棄をするかどうか」を家庭裁判所に申述する必要がある。不動産に多額の債務(ローンの残債など)が紐づいている場合や、他の負債があるケースでは、相続財産全体を把握した上でこの判断が必要だ。

次に、相続開始から10か月以内が相続税の申告・納税期限だ。相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」なので、財産の合計がこれを下回れば申告不要だが、不動産の評価額は路線価や倍率方式で計算した額であり、市場価格より低い場合が多い。自分では計算が難しいため、早めに税理士に依頼するのが得策だ。

2024年4月からは不動産の相続登記が義務化され、相続を知った日から3年以内に登記しないと10万円以下の過料が科される。登記を放置すると、将来の売却・担保設定・賃貸契約の際に手続きが複雑になる。登記費用は司法書士報酬込みで10〜15万円程度が相場だ。

売却・賃貸・保有継続のどれを選ぶにしても、方針によって税務上の有利・不利が変わる。複数の選択肢を抱えたまま判断に迷うなら、個別の判断は相続不動産の無料相談を活用することで、現状の整理から始めることができる。

感情と数字、どちらを先に整理するか

親の家には思い出がある。それは事実だし、否定するものでもない。ただ、思い出に固定資産税は関係なく、空き家は待っていてくれない。15年この仕事をしていて感じるのは、「決められなかった」ことで損した人の方が、「早まった」と後悔した人より圧倒的に多いということだ。

親が生前に「この家、どうするつもり?」と聞いてくれていたなら、その問いへの答えが今のあなたに求められている。感情を処理する時間は必要だが、その間にも税金と維持費は動いている。数字を把握することが、感情を整理する助けにもなる。

株式会社ウェルスターエージェンシー監修株式会社ウェルスターエージェンシー投資用1棟収益物件に特化した不動産仲介・コンサルティング会社。CF・IRR・DSCRを重視した数値ベースの投資判断と、融資戦略・出口戦略まで一貫して支援。東京都中央区に拠点を置き、首都圏・名古屋・関西圏の投資家へのアドバイザリー実績多数。宅地建物取引業免許 / 東京都知事(4)第92706号公式サイト wellstar-agency.com →

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配信: 株式会社ウェルスターエージェンシー

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