WELLSTAR AGENCY COLUMN
「減価償却で年200万円の節税ができる」──そう言われて区分マンションの購入を迷ったことがある人は、この記事を最後まで読んでほしい。節税になるのは事実だ。だが、その仕組みを正確に理解せずに1棟投資に踏み込んだ結果、売却時に想定外の税を払い、「節税になった期間より高くついた」という事例を、私はこの15年で何度も見てきた。
減価償却が「経費」になる理由を、会計の入口から整理する
建物は時間とともに劣化する。その劣化分を毎年の経費として計上する仕組みが減価償却だ。現金の支出は建物を買ったときにすでに終わっているにもかかわらず、税務上は毎年少しずつ費用として認められる。ここが肝心で、「キャッシュが出ていかないのに経費になる」という非常に稀な状況が生まれる。
不動産所得は、家賃収入から管理費・ローン利息・税金・減価償却費などを差し引いて計算される。サラリーマンや経営者が1棟アパートを保有した場合、不動産所得がマイナスになれば、給与所得や事業所得と損益通算ができる。これが節税の根拠だ。
減価償却費の計算式は単純で、「建物の取得価額 × 償却率」で算出される。木造アパートの法定耐用年数は22年、RC造マンションは47年だ。耐用年数が残っている新築と、すでに超過した中古では扱いが異なる。築古の木造アパートが減価償却の「旨み」として語られる理由がここにある。
中古木造の「4年償却」が生む節税インパクト
法定耐用年数を超えた木造建物の場合、耐用年数は「22年 × 20% = 4年」と計算される。4年間で建物の取得価額をほぼ全額経費化できるため、短期間に多額の不動産所得マイナスを作り出せる。これが「節税スキーム」として高所得者に勧められる理由だ。
仮に建物評価2,000万円の築25年木造アパートを取得した場合、年間の減価償却費は約500万円になる。所得税と住民税の合算税率が50%の経営者なら、単純計算で年250万円の節税効果が生まれる。4年で1,000万円。この数字だけを見れば魅力的に見える。
※建物取得価額2,000万円・定額法で試算。土地分は除く。
「節税効果」の正体は税の先送りであって、消滅ではない
減価償却費で不動産所得をマイナスにして所得税を圧縮できる。これは本当だ。しかし減価償却をかければかけるほど、建物の「帳簿上の価値(簿価)」は下がっていく。この簿価が低くなると、売却時に何が起きるか。
売却益(譲渡所得)の計算は、「売却価格 − 取得費 − 譲渡費用」で行われる。この取得費には、購入時の価格から減価償却累計額を引いた金額が使われる。つまり、保有中にせっせと減価償却費を計上したぶんだけ、売却時の取得費が小さくなり、課税される譲渡所得が膨らむ。
短期譲渡(5年以内)なら譲渡所得税率は約39%、長期譲渡(5年超)でも約20%だ。対して減価償却で圧縮していた期間の限界税率が50%前後ならば、長期保有前提でも「先に高い税率で得して、後から低い税率で払う」というメリットはある。だから税率差を意識した設計が必要になる。問題は、この計算を最初にしていない人が多いことだ。
融資評価と減価償却費の関係は、見落とされやすい
金融機関が1棟物件の融資審査をする際、担保評価の計算には「積算評価」がよく使われる。土地は路線価ベース、建物は「再調達原価 × 残耐用年数 ÷ 法定耐用年数」で算出するのが基本的な方法だ。
ここで注意が必要なのは、法定耐用年数を超えた築古物件は建物の評価がほぼゼロになることだ。4年償却スキームが利く物件は、融資の担保としての評価も低い。つまり「減価償却で節税しやすい物件」と「融資評価が出やすい物件」は、必ずしも一致しない。節税目的で築古木造を1棟買いして、次の物件を買い増そうとしたとき、担保力が弱くて融資が通らないという事態が起きやすい。
横浜のAさんが「節税になった」と喜んでいた理由と、その後
横浜市南区で1棟アパートを保有するA氏(52歳・製造業の経営者、妻と子2人)は、2017年に築27年の木造アパート(8戸・総額8,500万円、土地3,500万円・建物5,000万円・表面利回り7.8%)を購入した。建物評価が高く設定されており、年間の減価償却費は約1,250万円。所得税・住民税の実効税率が52%だったA氏は、最初の4年間で累計約2,600万円の節税効果を享受した。
ところが2023年、隣地の開発に伴い立ち退き案件が持ち上がり、売却を検討することになった。売却想定価格は約9,000万円。喜んでいたA氏だが、税理士に試算を依頼すると、譲渡所得はほぼ売却価格全額に近い金額になることが判明した。建物簿価がほぼゼロになっていたからだ。6年保有だったため長期譲渡の税率(約20%)が適用され、譲渡税は約1,700万円。節税で2,600万円得て、売却で1,700万円払う。差し引き約900万円のプラスにはなったが、A氏は「税率差のシミュレーションを最初にやっておけばよかった」と話していた。
「売るときにこれだけ税が出るとは思っていなかった。最初の節税の数字しか見ていなかった」
A氏・52歳・製造業経営者(横浜市南区)
節税ありきではなく、キャッシュフローと出口を先に設計する
減価償却を活かした不動産投資は、次の順番で考えると整理しやすい。まず「この物件を何年保有して、いくらで売るか」という出口を先に想定する。次に、売却時の譲渡所得税額を仮計算する。その上で、保有期間中の節税額と売却時の税額の差分が、本当にプラスかどうかを確認する。
多くの節税提案では、保有中の節税額しか示さない。売却シミュレーションが資料に入っていない場合は、必ず自分で計算するか、税理士に依頼してほしい。特に短期売却を想定している場合は、39%の短期譲渡税率が一気にのしかかるリスクがある。
また、減価償却が終了した後のキャッシュフローにも注意が必要だ。償却期間が終わると経費として計上できる金額が大幅に減り、不動産所得が黒字化する。それまで節税できていた分が逆転し、むしろ不動産所得が増税要因になる局面が来る。この「償却後の実効利回り」を試算しておかなければ、保有継続か売却かの判断が遅れる。
RC造と木造、どちらを選ぶかは「節税の必要性」より先に決まる
RC造(鉄筋コンクリート造)の新築1棟マンションは、耐用年数47年のため年間の減価償却費は少ない。その代わり、融資評価が出やすく、修繕コストが低く抑えられる傾向があり、長期間の安定したキャッシュフローが期待できる。節税効果は薄いが、物件としての資産性は高い。
築古木造は節税効果が高い半面、修繕リスク・空室リスク・売却時の流動性リスクが重なる。「節税したいから木造」ではなく、「事業としてのリターンが合理的か」を先に評価するべきだ。
| 項目 | 築古木造(耐用年数超過) | RC造新築 |
|---|---|---|
| 年間減価償却費(建物2,000万円の場合) | 約500万円(4年間) | 約43万円(47年間) |
| 節税スピード | 短期集中型 | 長期分散型 |
| 融資担保評価 | 低い(建物評価ほぼゼロ) | 高い(耐用年数が長い) |
| 売却時の簿価 | 早期に枯渇・譲渡益が膨らむ | 長期間残存・税負担が分散 |
| 修繕リスク | 高い | 比較的低い |
| 向いている投資家像 | 高税率・短期売却前提 | 資産形成・長期保有志向 |
大阪・淀川区のBさんが1棟目で正しく設計した判断
大阪市淀川区で1棟マンションを取得したB氏(45歳・医師、独身)は、購入前に税理士と2時間かけて出口シミュレーションを行った。検討物件はRC造・築12年・12戸・総額1億8,000万円(土地5,000万円・建物1億3,000万円、表面利回り6.2%)。年間の減価償却費は約370万円と多くはないが、B氏の判断は「短期的な節税より、10〜15年後の売却時の出口価格と手残り額」を優先するというものだった。
保有8年目の現在、累計の節税効果は約1,200万円(税率換算)。物件の賃料は微減したものの、空室率は年間平均4%以下で推移している。金融機関からの評価も高く、2棟目の融資がスムーズに通った。B氏は「節税額は想定より少ないが、2棟目が買えたことで全体のポートフォリオが動いた」と語る。1棟目の担保力が次の物件取得の起点になった典型例だ。
「節税の数字より、次の物件が買えるかどうかを先に考えた。それが正解だったと思う」
B氏・45歳・医師(大阪市淀川区)
自分がどのくらいの規模の物件を取得できるかは、年収や金融資産だけでなく、職業・自己資金の性質・現在の借入状況によっても大きく変わる。1棟投資 購入力診断を使えば、30秒で自分の購入力の目安が分かる。
減価償却費をどう「設計」するか──実務上の着眼
土地と建物の按分比率は、売主との交渉と契約書の記載によって変わる余地がある。建物割合を高くできれば減価償却費も増える。ただし、過度に不合理な按分は税務署に否認されるリスクがある。固定資産税評価額や不動産鑑定士の評価を根拠にした按分であれば、合理性を主張しやすい。
また、建物付属設備(給排水設備・電気設備・エアコンなど)は建物本体とは別に、より短い耐用年数で償却できる。例えば給排水設備は15年、空調設備は13年などが目安だ。取得時に設備の内訳を明確にして、区分して計上することで、初期の減価償却費を厚くすることが可能になる。これは築浅のRC造でも有効な手法で、税理士と一緒に取得価額の明細を整理する価値がある。
なお、個人名義での保有と法人名義での保有では、減価償却費の扱いと課税の仕組みが異なる。個人は損益通算で給与所得を圧縮できる一方、法人は法人税率での課税になり節税のメカニズムが変わる。どちらが有利かは収入規模・家族構成・将来の相続方針によって異なるため、最初の1棟取得前に名義戦略も含めて整理しておく必要がある。はじめて1棟投資を検討する段階から個別に相談できる窓口として、はじめての1棟投資 無料相談を活用してほしい。
数字は正直だ。最初の計算を省かないこと
減価償却は、不動産投資における税務上の強力な武器だ。だが、その機能を「節税できる」の一言で終わらせると、売却時に足をすくわれる。保有中の節税と売却時の課税、融資担保力、償却終了後のキャッシュフロー──これらは全てつながっている。
「節税になると聞いたから買った」ではなく、「自分のポートフォリオとして10年後にどうなっているか」を起点に考えたとき、はじめて減価償却の設計が意味を持つ。あなたが今検討している物件の出口シミュレーション、本当に試算されているだろうか。
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配信: 株式会社ウェルスターエージェンシー





