WELLSTAR AGENCY INVESTMENT COLUMN
1. 不動産投資における立地選定の重要性
不動産投資において、立地は「後から変えることができない」唯一の要素です。建物の設備や内装はリノベーションで新しくできますが、その土地が持つ利便性や周辺環境を所有者の努力で変えることは困難です。そのため、物件を購入する前の段階で、どれだけ精度の高い調査を行えるかが、将来の収益性を左右します。
安定した賃貸経営を続けるためには、入居者が「ここに住みたい」と思える場所を選ぶことが基本となります。また、投資家としては、賃料収入(インカムゲイン)だけでなく、将来売却する際の価格(キャピタルゲイン)も考慮したエリア選びが求められます。
立地選定の基本的な考え方
- 需要が供給を上回るエリアか(空室リスクの低減)
- 資産価値が維持されやすいか(出口戦略の容易さ)
- 金融機関からの評価が得られるか(融資の引きやすさ)
2. エリア選定の3つの基礎指標
立地を選ぶ際、まずは広域的な視点でエリアを絞り込む必要があります。主に「人口動向」「交通の利便性」「生活利便施設」の3つの指標を確認しましょう。
2-1. 人口動向と需給バランス
日本全体では人口減少が進んでいますが、特定の都市部や再開発エリアでは人口流入が続いています。投資対象とする自治体の人口推移だけでなく、世帯数の推移も確認することが重要です。特に、単身世帯が増えているエリアはワンルームマンションの需要が高く、ファミリー世帯が多いエリアは戸建てや広めのマンションの需要が見込めます。
2-2. 交通の利便性(駅からの距離)
都市部における立地選定の基準として、駅から徒歩10分以内であることが一つの目安となります。特に単身向けの物件では、駅からの距離が賃料設定や空室期間に直結します。一方、地方都市や郊外の場合は、駅からの距離よりも「駐車場の有無」や「主要道路へのアクセス」が重視される傾向にあります。
2-3. 周辺環境と生活利便施設
スーパー、コンビニ、ドラッグストア、病院などの生活利便施設が徒歩圏内にあるかは、入居率に大きく影響します。また、嫌悪施設(騒音、悪臭、振動を発生させる施設)が近くにないか、夜間の街灯の明るさや人通りはどうかといった、現地の雰囲気も重要な判断材料です。
| 項目 | 都市部(駅近)の傾向 | 郊外・地方の傾向 |
|---|---|---|
| ターゲット層 | 単身者・共働き夫婦 | ファミリー層・車保有者 |
| 重視される設備 | オートロック・宅配ボックス | 駐車場(複数台)・広い収納 |
| 空室リスク | 低い(需要が豊富) | 立地条件により差が大きい |
| 資産価値の維持 | 維持されやすい | 土地価格の影響を強く受ける |
3. 建物構造と立地の相性
立地を選定する際は、その土地にどのような構造の建物を建てる(あるいは購入する)のが最適かを考える必要があります。構造によって耐用年数や建築費が異なり、それが投資全体の収支に影響します。
3-1. RC(鉄筋コンクリート)造と都市部
RC造は耐火性や遮音性に優れており、高い賃料設定が可能です。都心部の商業地域や駅に近い土地では、高度利用(上に高く建てること)ができるため、RC造のマンションが主流となります。法定耐用年数が47年と長いため、長期の融資を受けやすいというメリットもあります。
3-2. 木造・軽量鉄骨造と住宅街
閑静な住宅街や郊外では、建築コストを抑えられる木造のアパートが多く見られます。RC造に比べて利回りを高く設定しやすい一方、耐用年数が短いため、融資期間が短くなる傾向があります。立地が良くても構造が古い場合は、修繕計画をより入念に立てる必要があります。
構造別の特徴まとめ
- RC造: 都市部向き。資産価値が高く、長期融資が可能だが、固定資産税も高め。
- 重量鉄骨造: RC造と木造の中間的性質。3〜4階建ての中規模物件に適する。
- 木造: 郊外・住宅街向き。建築費を抑えられ高利回りが狙えるが、遮音性や耐用年数に課題。
4. 融資評価から見た立地選定
不動産投資の多くは銀行融資を利用して行われます。そのため、「自分が気に入った土地」である以上に「銀行が評価する土地」であるかどうかが極めて重要です。
4-1. 積算価値(コストアプローチ)
銀行は、万が一返済が滞った際の担保として物件を評価します。土地については「路線価」を基準に計算されることが一般的です。路線価が高いエリアは積算価値が出やすく、融資の承認が得られやすくなります。地方の広大な土地よりも、都市部の狭い土地の方が、1平方メートルあたりの評価が高いために有利になるケースも少なくありません。
4-2. 収益還元価値(インカムアプローチ)
その物件が将来どれだけの利益を生むかを評価する方法です。稼働率が高いエリアや、将来的に賃料が下がりにくい立地は、収益還元価値が高いと判断されます。銀行によっては、積算価値よりもこの収益性を重視する場合があるため、周辺の家賃相場と対象物件の乖離がないかを精査する必要があります。
5. リスク管理:ハザードマップと将来の不確実性
良好に見える立地であっても、災害リスクを無視することはできません。近年の自然災害の激甚化に伴い、投資判断におけるハザードマップの確認は必須事項となっています。
5-1. 水害・土砂災害リスクの確認
地方自治体が公開しているハザードマップを確認し、浸水想定区域や土砂災害警戒区域に入っていないかをチェックします。たとえ賃貸需要が高いエリアでも、浸水リスクが高い場所では、将来の売却時に買い手がつかなかったり、火災保険料が高額になったりするリスクがあります。
5-2. 近隣施設の変遷リスク
現在は便利な立地であっても、将来的に近くの大型スーパーが撤退したり、主要な工場や大学が移転したりする可能性があります。エリア全体の「持続可能性」を見極めるためには、自治体の都市計画や再開発情報を収集することが大切です。
立地のリスク調査手順
- 公的データの確認: 自治体のホームページでハザードマップと都市計画図を閲覧する。
- 用途地域のチェック: 将来、隣に高い建物が建つ可能性があるか(日照・プライバシーへの影響)を確認する。
- 現地調査(昼): 周辺の空室状況や建物の管理状態、街路の清潔さを確認する。
- 現地調査(夜): 街灯の有無、騒音、治安の不安を感じる要素がないかを歩いて確認する。
6. 税務視点での立地と構造の関係
立地と構造は、毎年の税金やキャッシュフローにも影響を与えます。特に固定資産税と減価償却費の関係は無視できません。
6-1. 固定資産税と都市計画税
土地の評価額が高い好立地の物件は、当然ながら固定資産税も高くなります。特に商業地に建つRCマンションなどは、税負担が収支を圧迫することもあります。賃料収入とのバランスを事前にシミュレーションしておくことが重要です。
6-2. 減価償却費による節税効果
建物の比率が高い物件(木造アパートなど)は、短期間で大きな減価償却費を計上できる場合があります。一方、土地の比率が高い物件は減価償却できる額が少なくなりますが、土地は経年劣化しないため、資産価値が目減りしにくいという特徴があります。ご自身の所得状況に合わせて、どちらのタイプが適しているかを判断する必要があります。
7. 出口戦略を見据えた選定基準
不動産投資の最終的な利益は「運用中のキャッシュフロー + 売却価格 ー 購入価格」で決まります。出口戦略(売却)を考慮しない立地選定は、投資の失敗につながりかねません。
7-1. 流動性の高いエリアを選ぶ
売却したいと思った時に、すぐに買い手が見つかるエリアを「流動性が高い」と言います。都心部や人気路線の沿線は流動性が高く、不況時でも価格が暴落しにくい傾向があります。逆に、特定の企業の宿舎需要だけに頼っているようなエリアは、その企業の動向次第で流動性がゼロになるリスクがあります。
7-2. 購入層の広さを考える
出口戦略では「誰に売るか」を想定します。収益物件として投資家に売るのか、あるいは実需(自分が住むため)として個人に売るのか。例えば、駅から近いマンションであれば、投資家だけでなく、実需層もターゲットにできるため、売却の選択肢が広がります。
| 出口戦略の種類 | 適した立地・条件 | メリット |
|---|---|---|
| 投資家への売却 | 利回りが安定しているエリア | 賃借人がついたまま(オーナーチェンジ)で売却可能 |
| 実需層への売却 | 住環境が良く、人気の学区や住宅地 | 銀行融資(住宅ローン)が通りやすく、高値で売れる可能性がある |
| 更地にして売却 | 土地の形状が良く、接道条件が優れた場所 | 建物の老朽化に関わらず、土地としての価値で取引できる |
8. 失敗しないための立地選定ステップ
最後に、具体的な立地選定の流れを整理します。感覚に頼らず、定量的なデータと定性的な調査を組み合わせることが大切です。
効率的な立地選定の5ステップ
- 目的の明確化: 利回り重視(地方・木造)か、資産性重視(都市部・RC)かを決める。
- マクロ調査: 都道府県や市区町村レベルの人口推移、開発計画を統計資料で確認する。
- ミクロ調査: 候補物件の最寄り駅から現地まで歩き、周辺施設や入居者のターゲット層を確認する。
- 競合分析: 近隣の似た条件の物件の空室率や募集賃料を調べ、対象物件の競争力を把握する。
- 融資打診: 金融機関に物件概要を持ち込み、その土地に対する評価を確認する。
最終チェックリスト
- 最寄り駅から徒歩10分以内か(都市部の場合)
- ハザードマップで深刻なリスクがないか
- 近隣に賃貸需要を支える施設(大学・病院・大手企業等)があるか
- 将来的な再開発や新駅設置などのプラス材料があるか
- 出口(売却時)に誰が買うかをイメージできるか
まとめ
立地選定は、不動産投資における「土台」です。この土台がしっかりしていれば、多少の市況の変化があっても安定した経営を続けることができます。人口動向や利便性といった基本指標から、融資評価、リスク管理、税務、そして出口戦略に至るまで、多角的な視点を持つことが大切です。
まずはご自身の投資目的を明確にし、長期的な視点で価値が変わらない、あるいは価値が高まる可能性のある場所を見極める力を養っていきましょう。丁寧な調査と慎重な判断が、着実な資産形成への第一歩となります。

