実践ガイド:専従者給与の設定と税務署の視点の重要ポイント

WELLSTAR AGENCY INVESTMENT COLUMN

不動産投資を個人事業主として展開する場合、利益(所得)をいかに分散し、世帯全体のキャッシュフローを最大化するかは極めて重要な課題です。その中心的な役割を担うのが「青色事業専従者給与」の制度です。

しかし、この制度は単に「家族に給与を支払えば税金が安くなる」という単純なものではありません。税務署の厳しい視点を理解し、実務実態を伴わせなければ、後の税務調査で否認されるリスクを孕んでいます。また、銀行融資や将来の出口戦略にも影響を及ぼします。

本稿では、不動産投資エージェントの知見から、専従者給与設定の妥当性と、長期的な賃貸経営における最適解を詳説します。

1. 専従者給与の基本構造と適用要件

不動産所得において、本来家族への給与は経費として認められません。しかし、青色申告の特典を利用することで、一定の条件のもと給与を経費化できるようになります。

青色申告と白色申告の比較

項目 青色事業専従者給与 事業専従者控除(白色)
上限額 適正な範囲内で制限なし 配偶者86万円/その他50万円
届出書の提出 必要(期限あり) 不要
給与の性質 実費として経費算入 一律の控除(実支払は不要)
主な要件 事業に専ら従事していること 事業に専ら従事していること

専従者の定義と注意点

  • 生計を一にしている配偶者や親族: 住所が別でも生活費を共有していれば対象。
  • 15歳以上であること: その年の12月31日時点で15歳以上(中学生を除く)。
  • 年間6ヶ月超の従事: 事業に従事する期間が年間で半年を超えていること。
  • 他との兼職制限: 他で正社員として働いている場合は原則として認められません。

2. 税務署が注目する「給与額の妥当性」

専従者給与を設定する際、最も留意すべきは「その業務内容に対して、支払う給与額が適正か」という点です。税務調査において否認されるケースの多くは、実態と金額の乖離にあります。

妥当性を判断する3つの基準

  1. 労務の対価性: 掃除、記帳、入居者対応など、具体的な業務内容があるか。
  2. 事業規模とのバランス: 所得が300万円しかないのに、給与を300万円支払うのは不自然とされます。
  3. 世間相場との比較: 同等の事務作業を外注、あるいはパート社員に依頼した場合の時給相場が基準となります。

所得分散による節税効果のイメージ(所得800万円の場合)

オーナー単独の課税所得(800万円)

所得税・住民税:約150万円

世帯分散(オーナー500万:専従者300万)

合計税額:約100万円

※概算数値です。控除状況により変動します。

3. 融資審査への影響とリスク管理

不動産投資を拡大させる上で、金融機関からの評価は生命線です。専従者給与の設定は、決算書(確定申告書)の見え方を大きく変えます。

銀行視点でのチェックポイント

銀行は「実質的な返済能力」を見ます。専従者給与を多額に計上すると、帳簿上の利益は圧縮されますが、世帯全体の収入としては維持されます。

  • キャッシュフローの再計算: 銀行は専従者給与を「利益」に戻して評価することが多いです。
  • 生活費の妥当性: 専従者給与が世帯の生活費として適切に機能しているかが見られます。
  • 債務者としての評価: 専従者(配偶者など)が将来的に連帯保証人や共同借入人となる場合、その方の収入源として認められるメリットがあります。

4. 実務ステップ:導入から運用まで

専従者給与を適正に開始するための手順を整理します。

  • 青色事業専従者給与に関する届出書の提出
    給与を支払おうとする年の3月15日まで(開業した場合は2ヶ月以内)に、納税地の税務署へ提出します。
  • 業務内容と勤務時間の記録
    「何を」「いつ」「どのくらい」行ったかを、業務日報やカレンダーに記録しておきます。これが実態の証明となります。
  • 給与規定の作成と振込の徹底
    手渡しではなく、必ず専従者名義の口座へ振り込みを行います。通帳の履歴が最強の証拠になります。
  • 源泉徴収事務の遂行
    給与額が月額88,000円(社会保険料控除後)を超える場合、源泉所得税の徴収と納付が必要になります。
  • 年末調整の実施
    12月には他の従業員と同様に年末調整を行い、法定調書合計表を提出します。
  • 5. 出口戦略と税務リスクの回避

    不動産を売却する「出口」においても、専従者給与の運用状況は間接的に影響します。例えば、法人の設立を検討する場合、個人事業での専従者給与の実績が、法人化した際の役員報酬設定の根拠(妥当性)として援用されることがあります。

    よくある失敗事例と回避策

    失敗のケース リスク 回避するための対策
    他の会社でフルタイム勤務している 全額否認 副業規定を確認し、休日の手伝い程度なら実費精算に留める。
    相場を無視した高額給与 過大評価部分の否認 近隣の事務パート時給×労働時間を基準に設定する。
    業務実態が一切ない 重加算税の対象 記帳、物件清掃、業者対応など、具体的な役割を与える。

    6. まとめ:冷静な判断が長期の利益を生む

    専従者給与は、不動産賃貸経営を「家業」として育てるための有効なツールです。しかし、節税のみを目的とした無理な設定は、税務調査による追徴課税や、銀行からの信用失墜という大きな代償を払うことになりかねません。

    実務上の黄金律

    1. 実態を先行させる: 支払う金額に見合う仕事を、まず定義すること。
    2. 証拠を残す: 振込履歴、業務日報、届出書の控えを整理・保存すること。
    3. バランスを重視する: 世帯のキャッシュフロー、税負担、融資評価の3点を俯瞰して金額を決めること。

    不動産投資の規模が拡大するにつれ、税務の複雑性は増していきます。専従者給与を適切に設定し、透明性の高い経営を行うことが、最終的には「最も効率の良い資産形成」へと繋がります。検討の際は、信頼できる税理士やエージェントと共に、自身のポートフォリオに最適な金額をシミュレーションすることをお勧めいたします。

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