知っておきたい境界確定とインフラ整備の売却準備の基礎と応用

WELLSTAR AGENCY INVESTMENT COLUMN

不動産投資における「出口戦略」を検討する際、物件の収益性や利回りに意識が向きがちですが、実務において取引の停滞や価格減額の要因となるのは、物理的・法的な基礎部分の不備です。特に土地戸建や一棟収益物件において、「境界が未確定であること」や「インフラの引込状況が不明瞭であること」は、買主の融資審査に大きなマイナスの影響を与えます。

本稿では、不動産投資エージェントの視点から、売却準備として不可欠な境界確定とインフラ整備の基礎知識、そしてそれらが融資や税務、出口戦略にどのように関わるかを体系的に解説します。

1. 境界確定の基礎と売却への影響

境界確定とは、隣接地との境目を法的に明確にすることです。これが曖昧な状態では、買主は将来的な紛争リスクを懸念し、金融機関も担保価値を厳しく評価します。

境界の種類と比較

境界には大きく分けて「公法上の境界(筆界)」と「私法上の境界(所有権境)」の2つの側面があります。実務上は、隣接所有者全員と合意の上で作成する「確定測量図」の有無が重要です。

項目 現況測量 確定測量
定義 現在のフェンスやブロック塀に基づき、概算で面積を出す測量。 隣地所有者の立ち会いのもと、全ての境界点を合意・確認する測量。
法的効力 低い(あくまで参考値)。 高い(登記申請や分筆が可能)。
売却時の信頼性 融資が通りにくい場合がある。 標準的な取引条件として求められる。
期間の目安 約1〜2週間 約3ヶ月〜半年(官民査定がある場合)
境界確定の重要ポイント:

  • 古い公図と現況が一致しない「地図混乱地域」では、解決に年単位の時間を要することがあります。
  • 隣地が公共用地(道路や水路)の場合、役所との「官民査定」が必要となり、手続きが複雑化します。
  • 越境物(屋根の出っ張り、樹木など)がある場合は、「越境に関する覚書」を締結しておくことが出口戦略の基本です。

2. インフラ整備状況の確認と資産価値

不動産の利用価値は、ライフライン(上下水道・ガス・電気)が適切に確保されているかに依存します。特に古い物件や再建築不可に近い物件では、インフラの権利関係がボトルネックとなります。

インフラチェックリスト

売却前に最低限確認しておくべき項目は以下の通りです。

  1. 前面道路の配管状況: 公道か私道か、本管の口径は十分かを確認。
  2. 敷地内への引込: 隣地を経由して引き込まれていないか、他人の配管が自地を通っていないか。
  3. 私道承諾書の有無: 私道を通って掘削・埋設を行う場合、所有者全員の「掘削承諾」が必要です。
  4. 受益者負担金: 下水道の受益者負担金が納付済みかどうかを確認。

【視覚化】インフラ・境界整備による流動性の変化(イメージ)

整備済み物件
95%

境界未確定
60%

インフラ不明瞭
30%

※流動性:早期売却の可能性および融資承認率の傾向を示す

3. 融資審査における境界とインフラの重み

投資家にとっての出口は、次の買主が融資を受けられるかどうかにかかっています。銀行の担保評価において、以下の点は致命的な欠陥(瑕疵)とみなされることがあります。

金融機関が厳視するリスク:

  • 未登記建物や増築の不備: 境界確定ができていないと、建蔽率・容積率の正確な判定ができず、融資否決の理由になります。
  • 私道負担と通行権: 道路持分がない場合や、通行・掘削承諾が得られていない場合、再建築不可に近い扱いを受けることがあります。
  • 埋設管の越境: 他人の敷地の下を通っている水道管などは、将来の修繕時にトラブルとなるため、解消または合意書が必須です。

4. 売却準備のステップ:確定測量の進め方

境界確定を円滑に進めるためには、土地家屋調査士との連携が鍵となります。以下に標準的な流れを示します。

【確定測量の実務フロー】

  1. 資料調査: 法務局での公図、地積測量図、役所での道路台帳の確認。
  2. 現況測量: 現状の境界標や構造物を計測し、図面を作成。
  3. 隣地所有者への挨拶: 測量の趣旨を説明し、立ち会いの協力を依頼。
  4. 境界立ち会い: 現場で隣地所有者、自治体担当者と境界点を確認。
  5. 境界承諾書の締結: 全員の署名捺印を得て、境界標を設置。
  6. 登記申請(必要に応じて): 地積更正登記や分筆登記を行う。

5. 出口戦略における税務とコストの考え方

境界確定やインフラ整備には、相応の費用(数十万〜数百万円)がかかります。これらを「いつ」支出するかは、節税の観点からも重要です。

譲渡費用の活用

測量費用やインフラ整備費(売却のために直接要したもの)は、譲渡所得計算において「譲渡費用」として認められるのが一般的です。これにより、売却益にかかる譲渡所得税を圧縮することが可能です。

支出項目 税務上の扱い 出口戦略上の効果
確定測量費 譲渡費用として算入可能 買主の安心感醸成、融資承認率アップ
水道管引込工事費 資産の取得価額または譲渡費用 「即建築可」として売却価格の向上
建物解体費 譲渡費用(更地渡しの場合) 土地としての利用価値を明確化

6. リスク管理:境界紛争が起きた場合の対処法

全ての隣地所有者が協力的とは限りません。印鑑がもらえない、あるいは境界の認識が食い違うといったトラブルは珍しくありません。

そのような場合でも、以下の手法で解決を図ることが検討されます。

  • 筆界特定制度: 法務局の筆界特定官が、外部専門家の意見を踏まえて筆界を特定する制度。裁判を経ずに解決できる可能性があります。
  • ADR(裁判外紛争解決手続): 土地家屋調査士会などが運営する相談窓口を利用し、話し合いによる解決を目指します。
  • 現状有姿・境界非明示での売却: リスクを織り込んで価格を下げる手法ですが、買主がプロ(買取業者など)に限定される傾向があります。

まとめ:価値を最大化する「整える」作業

不動産投資の成功は、購入時の価格設定だけでなく、出口における「商品としての完成度」に左右されます。境界確定とインフラ整備は、地味で手間のかかる作業ですが、これらを怠ることは、潜在的な買主の大部分を占める「ローンを利用する層」を排除することに他なりません。

エージェントからのアドバイス:

売却を決断してから測量を始めては、契約までのタイムラグでチャンスを逃すことがあります。保有期間中から、少なくとも「現況の図面があるか」「隣地との関係は良好か」「インフラに不明点はないか」を棚卸ししておくことが、冷静で有利な取引への第一歩です。

確かな準備に基づいた不動産取引こそが、長期的な投資成果を安定させる基盤となります。

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