WELLSTAR AGENCY INVESTMENT COLUMN
不動産投資における「出口戦略」は、投資の成否を決定づける最終かつ重要な工程です。特に区分マンションの複数所有や、一棟収益物件を所有している場合、「バルク(一括)で売却するか」、それとも「戸別にバラして売却するか」という選択肢が浮上します。
この選択は、単に販売価格の総額を比較するだけでなく、売却期間、融資の付けやすさ、税務負担、そして管理の手間といった多角的な要素が複雑に絡み合います。本稿では、これらの相違点を整理し、投資家が自身のポートフォリオに最適な選択を行うための知識を深めていきます。
1. バルク売りと戸別売りの基本概念
まず、それぞれの売却手法の定義と特徴を確認しておきましょう。バルク売りは「まとめ売り」であり、戸別売りは「切り売り」です。この基本構造の違いが、そのまま価格形成に反映されます。
| 比較項目 | バルク売り(一括売却) | 戸別売り(分譲売却) |
|---|---|---|
| 主な買主 | 法人投資家、機関投資家、REIT | 個人投資家、実需(居住)層 |
| 単価の傾向 | 卸値に近い(ディスカウント傾向) | 小売値に近い(プレミアム傾向) |
| 売却スピード | 比較的早い(一度の手続きで完了) | 時間がかかる(一戸ずつの成約が必要) |
| 諸経費(比率) | 低い(仲介手数料などが一度で済む) | 高い(契約件数分のコストが発生) |
| 管理の継続 | 即座に全室切り離しが可能 | 全室完売まで管理責任が残る |
バルク売りは「投資効率」を重視するプロ向けの市場であり、戸別売りは「所有の価値」や「個別の収益性」を重視する一般消費者・個人投資家向けの市場であると理解することが重要です。
2. 収益性の構造的差異:なぜ価格差が生まれるのか
一般的に、戸別売りの総額はバルク売りの価格を上回る傾向にあります。これを「分譲プレミアム」と呼びます。しかし、表面的な価格差だけで判断するのは危険です。以下のグラフは、想定される売却価格と、諸経費を差し引いた手残り(純収益)のイメージを比較したものです。
売却手法による収益イメージ比較(指数)
※戸別売りの総額を100とした場合の相対比較(概算)
戸別売りは総額こそ大きくなりますが、以下のコストが累積的に発生することを考慮しなければなりません。
- 契約事務手数料: 契約件数分の印紙代、仲介手数料。
- リフォーム費用: 実需(居住用)として売却する場合、内装のバリューアップが必須となるケースが多いです。
- 空室リスク: 売却期間中の管理費・修繕積立金の負担および賃料収入の喪失。
3. 融資戦略と出口の流動性
不動産取引において、買主が融資を利用できるかどうかは、売却の成否を左右します。
バルク売りの融資事情
バルク売りでは、買主は数億円規模の資金調達を行うことになります。この場合、金融機関は買主の「事業実績」や「法人としての信用力」を厳格に審査します。融資がつく先が限定されるため、ターゲットとなる買主層は狭まりますが、一度決まれば決済はスムーズに進む傾向にあります。
戸別売りの融資事情
一戸単位であれば、買主は住宅ローン(実需の場合)や個人向けの投資ローンを利用できます。現在、個人向け融資は属性(年収や勤務先)によって比較的活発に行われているため、買主の母数は非常に多くなります。特に「居住用」として売却できる構造であれば、低金利の住宅ローンを利用する層がターゲットとなり、高い売却価格が期待できます。
戸別売りの場合、最初の数戸は順調に売れても、最後に残った条件の悪い部屋(低層階、日当たり不良など)が長期間売れ残り、全体の投資回収を遅らせるリスクがあります。
4. 税務面での考慮事項:譲渡所得と消費税
税金は最終的な手残りを大きく左右する要素です。売却手法によって適用される税制が異なる場合があります。
譲渡所得税の期間判定
個人投資家の場合、所有期間が5年を超えるかどうかで「短期譲渡所得(税率約39%)」か「長期譲渡所得(税率約20%)」かが決まります。戸別売りの場合、全戸を売り切るまでに数年を要すると、途中で税率が変わる可能性がありますが、売却時期をコントロールすることで節税を図る戦略も立てられます。
消費税の還付と納付
法人の場合、建物の売却価格には消費税がかかります。バルク売りの場合は一度の申告で済みますが、戸別売りの場合は売上の計上時期が分散するため、免税事業者の要件や課税売上比率の変動に注意が必要です。特に消費税還付を受けている物件の場合、売却によって還付金の返還が必要になるケースもあるため、税理士との事前の打ち合わせが不可欠です。
5. 実践:売却戦略の策定ステップ
実際に自身の所有物件をどのような方針で売却すべきか、以下の手順で検討を進めることを推奨します。
まずはバルク価格と、戸別売りの想定価格(リフォーム後価格含む)の両軸で査定を行います。
戸別売りの場合の「空室コスト」「修繕費」「手数料合計」を算出し、バルク売りの手残りと比較します。
現在の金融情勢(ローン付けの難易度)や、近隣の競合物件の成約状況を調査します。
「現金化の期限」を優先するか、「総利益の最大化」を優先するか、目的を明確にします。
戦略に合致した販売ネットワークを持つエージェントを選定し、売却活動を開始します。
6. まとめ:どちらの手法を選ぶべきか
バルク売りと戸別売りの選択に「正解」はありませんが、判断の目安となる基準は存在します。
バルク売りが適しているケース
- 早期の現金化を必要としている場合。
- 管理の手間を一掃し、次の大きな投資へ資金を移動させたい場合。
- 物件の構造(一括受電や共有部の仕様)が、切り離し販売に向かない場合。
戸別売りが適しているケース
- 売却期間に余裕があり、1円でも多く利益を確保したい場合。
- 各住戸のポテンシャルが高く、実需(居住用)としての需要が見込める場合。
- 段階的に資産を圧縮し、所得税の分散を図りたい場合。
投資家としてのステージや、その時の市場の温度感を的確に捉えることが、収益差を最適化する鍵となります。まずはご自身のポートフォリオの現状を把握することから始めてみてはいかがでしょうか。
不動産市場は流動的です。バルク売りを得意とする業者と、個人向け分譲を得意とする業者は異なります。適切なアドバイザーを選定し、複数のシナリオを用意しておくことが、安定した投資成果に繋がります。

